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キノマガ

木野龍逸(フリーランスライター)

木野龍逸

マスメディアの情報が少なくなってきた福島第一原発のその後はどうなっているのか。燃料デブリはどうなるのか。事故処理はどこまで進んでいるのか。原発周辺の町はどうなっているのか。あまり知られていない原発事故に関する情報を定期的にお伝えしていくほか、日々の取材活動で見聞きした情報を発信していきます。

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世の中、令和の改元でお祭り騒ぎが続いてるけども、相変わらず政府の原発事故対応は被害を過小評価してるし、避難者の切り捨ては進んでるし、廃炉といっても何をどうするのかを決めないまま誤魔化してるしで、急に何かがかわるわけもないわけで、個人ができることは小さなことでしかないのを認めつつ、ぼちぼち進んでいこうと思っている今日このごろです。

 そんなわけで今回は、福島第一原発の状況を少し整理してみたいと思います。その題材を、少し前に経産省が提示してくれたので、まずはそこから見てみましょう。

■経産省の福島第一原発の認識が大甘なこと

 2019年3月20日にエネ庁は「福島第一原発事故の処理に向けて ~2018年の取組~」と題した特集ページをWEBサイトで公開した(https://www.enecho.meti.go.jp/notice/topics/037/)。

 きっかけは、2019年3月7日に日本経済研究センターが事故処理にかかるコストを試算して発表したこと(https://www.jcer.or.jp/policy-proposals/2019037.html)。経産省のHPは、この試算を強く批判するものになっているのだけど、菅官房長官の言葉を借りれば、まさに「当たらない」ことばかりで自己都合に終始し、読む人が誤った認識を持つ可能性が高い内容になっている。

 経産省は「福島第一原発事故の処理に向けて」の中で、(1)福島第一原発の事故処理作業の進捗状況、(2)賠償の取組状況、(3)事故処理費用の3点について現状を紹介している。

 まず廃炉・汚染水対策の進捗状況を示した「福島第一原発における廃炉・汚染水対策、この1年」では、建屋周辺で地下水をくみ上げる井戸(サブドレン)が稼働していることと、凍土壁(陸側遮水壁と呼ばれている)などの対策で「汚染水発生量が大幅に低減するなど、対策の効果が着実に出てきています」と説明している。

 加えて、多核種除去設備(ALPS)で汚染水からストロンチウムなど多数の放射性核種を除去した「処理水」と政府が呼んでいるトリチウム汚染水については、説明会や公聴会を開き「国の小委員会の場で丁寧に検討」しているとする。

 また燃料デブリについては、2号機原子炉格納容器の調査を紹介して、デブリと思われる堆積物の接触調査で「一定の成果が得られました」と強調している。

 これらの説明が間違っているわけではないが、どれもこれも大事なことに触れず、表面上はうまくいっているようなことばかり取り上げてるのが気にかかる。

 はじめに汚染水の大幅低減について。確かに汚染水の増加量は、ピーク時の1日あたり470トン程度から、今は170トン程度に減っている。けれども、2011年に策定した工程表では、2011年末までに汚染水の全体量を減少させることが到達点だったことを考えると、根本的な部分で前に進んでいないことがわかる。汚染水の全体量は、現在は110万トン以上に増加。東電は137万トン分のタンクを建造する計画といっているけども、その後については曖昧にしたままで、説明を求めても回答しない。とはいえ、永遠にため続けるわけにはいかない、とも言い続けている。

 東電や政府の見通しでは、早ければ2年以内にタンクは満杯になる。タンクの増設のためには、福島第一原発の構内に敷地を確保するか、あるいは中間貯蔵施設の予定地を買収して土地を確保する必要があるけれども、東電はどちらも手を着けてない。土地を確保しても造成が必要なので、時間的な猶予はそれほどないはずだけども、東電は、タイムリミットの考え方さえ明らかにしない。

 海洋放出も念頭に置きながら議論を進めている経産省(資源エネルギー庁)の有識者会議「多核種除去設備等処理水の取扱いに関する小委員会」は、2018年12月に会合を開いた後、次の会合は決まっていない(5月2日現在)。説明会や公聴会を開いたというけども、2018年夏に開催された説明会は住民の猛反発にあい、海洋放出の目論見は頓挫。その後も、対話や住民の合意形成、トリチウム放出時の法律への適合性やコスト、周辺への影響などについては議論は進んでいない。

■裏付けのない情報を出し続ける

 燃料デブリについては、「格納容器内の堆積物に調査装置を接触させ、その堆積物の硬さなどの情報を取得するとともに、小石状の堆積物を初めてつかんで動かせることを確認」したことで一定の成果としてるけれど、現実にわかったことといえば、「硬いこと」くらいなものだ。

 一方でデブリ取り出しのためには、どの程度の硬さなのか、堆積物を掘削などするためには何が必要なのか、そもそも性状はどうなのかが最低限の情報だ。でもそれは、何一つわかっていない。

 この関係では、政府から多額の補助金が注ぎ込まれているIRID(国際廃炉研究開発機構)は4月24日、三菱重工と競合開発した大型のロボットアームなどを公表したことについて、新聞などではロボットアームが5ミリの誤差で動作可能だという性能を紹介していた。でも、少し想像力を働かせれば、<動かせるのはいいけど、どうやってデブリを削るの?><取り出したデブリはどこへいくの?>という疑問の検討は、まったくといっていいほど進んでいない。

 もうひとつ、<そもそも、格納容器の横に大穴を開けて取り出すなんて可能なの?>についての技術的検討は、原子力損害賠償廃炉等支援機構(NDF)で議論されてるけども、結論がいつ出るのかは未知数だ。だからこの大型ロボットアーム(長さ7m、重さ4トンもある)が使い物になるのかどうかは、これからわかる。もっとも実現可能性も考えずに、とりあえず造ってみましたという程度のものに使い道があるとは到底思えないんだけれども。

 ちなみNDFは、今年の夏から初秋にかけてのどこかで、中長期ロードマップの改訂をするのではないか。今まで2年ごとに改訂していて、前回は2017年だった。そろそろではないかなと。そこで何がどう変わるのか、経産省の見込みがどんなふうに誤魔化されるのか、注目したいところだ。

 そして経産省HPではもうひとつ、重要なポイントが抜けている。作業スケジュールがこれまでどう変わってきたのか、ひと言も触れていないことだ。

 例えば使用済燃料プールからの燃料取り出しは、3号機は2014年末に始める予定だったのが、ようやく最初の7体を取り出したところだ。しかも、これも経産省は何も書いていないけど、3号機の作業は品質管理の甘さからトラブルが頻発。品質管理手順が適切なのかどうかは、今でもよくわかっていない。そんな状況だから、ロードマップの予定と比べると廃止措置にかかわるほぼすべての作業は遅れを生じているのに、経産省HPにはひと言も書いていない。

2018年の最大の問題は、東電や東芝の品質管理の杜撰さが明らかになったことだったのに、「福島第一原発における廃炉・汚染水対策、この1年」でまったく触れないというのは、現状を誤魔化しているとしか言いようがない。こんな自分勝手な情報提供の仕方をしているから、政府も東電も信頼を失い続け、ひいては事故処理作業にも悪影響を及ぼしているのは間違いないのだけど、政府や東電に反省の姿勢はないのが現状だ。

■嘘ばかりの「3つの誓い」

 さて、経産省・エネ庁は次に、(2)「被災者への賠償に向けた取組、この1年」と題して、賠償の状況を解説している。

 この項目の冒頭で、東電の再建計画を記すと同時に、原子力損害賠償・廃炉等支援機構から交付金を受け取るための条件でもある「新々・総合特別事業計画」の中に掲げられた「3つの誓い」にエネ庁として「コミットしています」と説明。国として「この「3つの誓い」に沿った適切な対応をするよう、折に触れて指導」していると主張している。

 この一文には呆れるしかない。なぜって、国は東電に対して実効性のある「行政指導」は、この件ではしたことがないからだ。もっと問題なのは、これだけの説明では、東電が賠償請求を拒否し続けている実態が完全に隠されていることだろう。

 東電の「3つの誓い」は、「最後の1人まで賠償貫徹」「迅速かつきめ細やかな賠償の徹底」「和解仲介案の尊重」だ。けれども被害者や被害者の弁護団、国会議員などから、ここ何年も続けて、東電が「和解仲介案の尊重」を守っていないという批判がたくさん出ている。

 福島第一原発の事故では、時間のかかる裁判を避けて迅速に賠償を実施するため、原子力損害賠償紛争解決センター(ADRセンター)が和解仲介手続きをする枠組みが作られた。ADRセンターは申立人(被害者)と東電の双方の言い分を聞いて和解仲介案を出す。

 ところが、東電が和解仲介案の受け入れを拒否する事例がここ数年で増加し続けている。このため日弁連や各地の弁護士会は会長声明などを出して批判し、国会でも何度も指摘されているが、東電の姿勢は変わらない。

 東電が和解仲介案を拒否するため、ADRセンターが手続きを打ち切る事例が急増している。事故後の3年ほどは申立件数が年間4000件を超えていたこともあって打ち切りもピークで400件を超えていた。その後、申立件数の減少と共に打ち切り件数も減って、2017年には195件になった。

 ところが2018年には打ち切りが252件に急増。同じ年の申立件数は1121件なので、実に2割以上が打ち切りになっていることになる。実際には申し立てから和解案の提示までは少し時間があるのでズレが出てくるが、申立件数がどんどん減っている中で打ち切りが急増するのは、あまりに不条理だ。

 こんな状況なので、2019年1月25日に開催された、原発事故の賠償指針を議論する文科省所管の「原子力損害賠償紛争審査会」では、ADRセンターの室長から「真摯に総特第3次計画に明記されている3つの誓いに従い、センターの実施する和解仲介手続きに対して真摯かつ柔軟な対応をお願いしたいと思う」という意見が出たほか、委員からも東電の和解案の受諾拒否増加について初めて、理由を説明するよう意見が出た。

 これに対して東電は、「2万件近い和解案の中には様々な検討の中で、どうしてもちょっと受諾が困難だというものが幾つか出てきておりまして、それにつきましては、従前よりちょっと交渉をさせていただいた中で、今回の打切りに至っているというふうに考えております」と釈明している。

 この説明はなんとも奇妙だ。そもそも東電は「3つの誓い」の中で和解案を尊重することを明記している。にもかかわらず、和解案の受諾が困難なものは拒否するというのは整合性に欠けるのではないか。

 この件に関しては、東電がADRの集団申し立て(浪江町ほか)について拒否を連発しているため、国会でも質問が出たことがある。

 東電は2018年12月4日の参院文教科学委員会で、副社長が和解案拒否についてこんな答弁をしている。

「一部には、浪江町集団ADRの申立てのように、申立人に共通する御事情として主張されている内容が既に中間指針で考慮をされているものもございます。そのような共通な御事情を理由に申立人全員に対し一律に追加での賠償を認められているものなどもあることから、和解案に基づく賠償を行うことは難しいという結論に至るものもございます」

 つまり、東電としては中間指針に沿った賠償はしているので、その上乗せになるADRの和解案はのめない、という意味だ。

 この答弁について、ADRセンターの佐々木所長は原賠審の席で「副社長の答弁内容は、当センターとしてはまったく承服できないものであるということを、ここで申し添えさせていただきたい」と、強い調子で批判をした。あたりまえの話だ。そもそも中間指針は、指針を策定した原賠審でも何度も、最低限のものでありそれ以上の賠償を認めないという意味ではないという主旨が説明されている。それにもかかわらず東電は、指針を上限とするような基準を主張している。

 個別のADRでは中間指針を超える賠償が認められている一方、集団申し立てを拒否するのは、影響が大きいからではないかと、多くの弁護士は考えている。いずれにしても、東電が「3つの誓い」に反して和解案を拒否しているのは明らかだ。

 ところがエネ庁のHPでは、こうした東電の姿勢についてひと言も触れていない。加えて、経産大臣が東電の経営陣に対し「被災者の方々の個別の御事情を丁寧に伺いながら適切な対応をしていただきたい」と申し入れている様子が写真つきで紹介しているが、これまでなんの効果もなかったことにも触れていない。経産大臣が東電に注意をするのは、これが初めてではない。経産大臣の言葉が無視されているにもかかわらず、東電に対する批判がなにもないのは、ものすごく不思議なことだ。

 ところでADRセンターの佐々木室長は原賠審で、次のような言葉を述べていた。
「着任以降(佐々木室長は2018年4月着任)、足尾鉱毒や四大公害裁判の変形バージョンになりかねないということを常々思っている。同じ日本社会を支える東北に、わだかまりや強い消極的な思いを積み残してはならない」

 現実には東電も政府も、過去の公害事件と同じように、被害者を葬り去ることに全力を尽くしているように見えて、気が重くなる。

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