この度の熊本地震は、災害関連死も含めた死者数が37名に上るなど、深刻な被害をもたらしています。お亡くなりになった方のご冥福をお祈りすると同時に、被災者の皆様方にお見舞い申し上げます。
今、被災地では、家屋の倒壊等で約1万人の方が避難生活を余儀なくされています。水道システムは破損し、約3万6,000戸が断水。道路や鉄道、高速道路、新幹線等の交通網の寸断も激しく、深刻な渋滞が続いています。
防災研究や被災地支援研究、災害時の渋滞対策等の研究者が多く所属している「土木計画学」という学問分野に対応した学術組織である土木学会土木計画学研究委員会では、こうした災害時に、当該学術組織の学術的知見を被災地の支援や復旧・復興、強靱化に生かすことを企図した「特別プロジェクト」を推進してまいりました。
ついては、この度の令和8年熊本地震に際しても、同プロジェクトが推進されることとなりました。
https://jsce-ip.org/disaster_related_info/2026_kumamoto_eq/
そのミッションは以下の三つ。
1.被災地域のニーズを踏まえた支援
2.即応的な対応策の検討および関係機関等への提示・提案
3.被災地域への支援を含む防災・減災および国土強靱化に関する実践の記録・分析ならびに知見の社会的還元
つまりそれは、被災地をどう支援するかを考え、その内容を政府や自治体、社会に提案し、被災地の復旧・復興を学術組織として加速することを目指すプロジェクトです。そして、その経験を解釈・分析し、他の地域の防災や強靱化に資する知見を取りまとめ、日本全体の防災レベル、強靱化レベルの底上げを図ることを目指すわけです。
メンバーは、この学術組織の学会員。とりわけ、こうした災害対策の研究を進めてきた研究者、そして現地で懸命に被災地支援と復旧のためにご努力されている熊本大学の先生方です。
そして昨日、現地の状況についての調査報告やデータに基づいて、現時点で「被災地支援」においてとりわけ大切な要点を簡潔にまとめた緊急提言書を発表しました。
『令和8年熊本地震・被災地支援に関する学術的所見(第一次)』
https://jsce-ip.org/wp-content/uploads/2026/08/a54a4db1746b5c40ef71359868d85292.pdf
学会の規約上、本書はあくまでも「学術的所見」を取りまとめたものという形になっていますが、その具体的内容はすべて「提言」に関するものです。
この「提言」にあたっては、被災地の方々、行政関係者からも様々な意見を伺い、実行委員会での議論を経て、現状では特に、以下の三つが被災地の被害の最小化のために必要だという所見をまとめました。
1.災害関連死の回避・最小化
2.迅速な被災地交通マネジメント
3.鉄道復旧にあたっての行政支援
詳細は、この「提言書」をご覧いただければと思いますが、とにかく今、一番懸念されているのは、災害関連死の拡大です。
何と言っても、平成28年熊本地震では震災死者数の82%が災害関連死だったのですから(直接死50人に対して関連死225人)、今回も特に対策をしなければ、関連死が一気に拡大しかねないのです。
そのために必要なのが二次避難です。そのためには、その「受け皿」としてのホテルなどを確保するとともに、関連死リスクの高い高齢者や病気を抱える被災者の皆さんに、優先的に二次避難を促すことが必要です。
この際、単なる情報提供だけでは「二次避難しない」という判断をする被災者が多くおられ、それが関連死の拡大につながりかねない――。そのため、単なる情報提供ではない「説得」(persuasion)が必要だという学術的見解を公表しています。
また、現下の被災地の交通混雑は激しく、これが被災地の被害拡大を招いています。
学会では、これまで蓄積してきた「被災地交通マネジメント」の知見を生かし、復旧の進展に応じて確実に拡大する「交通需要」に対応した「バス路線」の確保について、様々な提案を提示しています。
ただし、そうした交通対策の要はもちろん、「鉄道」、とりわけ「新幹線」の復旧です。
いろいろな情報を集めると、政府は未だ、鉄道復旧に向けた調査・支援を行うための「特殊部隊」である「Rail Force」を派遣していないとのこと――。能登半島地震では、このRail Forceが大きな役割を果たした経験がありますから、その迅速な派遣・活動を強く提言しています。
鉄道は道路と違い「民間企業」が運営していることから、本来的に、その復旧における政府の責任が法的に明確に定められているわけではありません。そのため、政府支援が道路に比べてどうしても「後手」に回りがちであるという問題があります。
そうした点に着目し、鉄道復旧における中央政府の役割を強調しています。
……以上のほかにも、被災地支援のためにはもっともっと様々な問題があるのですが、現下の状況ではこの三つがとりわけ重要ではないか、という議論を経て、今回の「第一次」の提言書の公表に至ったという次第です。
しかし、繰り返しますが、被災地には様々な種類の課題があることから、学会ではさらなる調査、ヒアリング、検討、議論を経て、「第二次」「第三次」の提言書の発出を考えているところです。
ついてはまず、一人でも多くの皆様にこの提言書をご覧いただき、それぞれのお立場で対応できることは何かを考え、それぞれのお立場で実践していただきたいと考えています。そして、今後の提言書にもぜひご注視いただきたいと、学術組織として祈念しています。
そのためにも、ぜひ皆様にも本提言書をHP等で「拡散」していただくことを通して、広くご周知いただけますと大変ありがたく存じます。
こうした経験を重ねることで、日本国民全体の災害に対する「強靱性」が引き上がり、来たるべき南海トラフ地震や首都直下地震といった、国家の存続そのものに関わる超巨大災害の被害水準が、少しずつ、少しずつ軽減されていくものと思います。
その意味で、震災の支援・復旧・復興の現場は、被災地だけではないのです。中央政府も、マスメディアも、そして国民世論もすべて、震災の支援・復旧・復興の現場なのです。
どうぞ、よろしくお願いいたします。
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