熊本地震の被災地への対応は、現在のわが国にとって最重要課題の一つです。
そうした中、土木学会の計画学委員会においても、関係各位のご協力を得ながら、さまざまな対応を進めています。その一方で、一研究者として、政府に対して次のような提言ができないかと考えています。
以下の提案は、2011年の東日本大震災直後に公表した「東日本復活五カ年計画」における重要な柱の一つでもありました。
一言で言えば、「自立的復興を企図した被災地支援」という考え方。題して、
「膨大な『災害対応需要』を、被災地の復興と地域経済の再生に『活用』する」
という提案です。
大規模災害が発生すると、救援・救護、避難所運営、インフラ復旧、住宅再建などに伴い、膨大な「救援救護・復旧復興需要」が発生します。以下、これを「災害対応需要」と呼ぶことにします。
一方、被災地では、災害によって行政的・経済的・社会的機能が大きく低下し、こうした災害対応需要に応えるための供給力、すなわち「災害対応供給力」が著しく不足します。
したがって、中央政府を中心として、全国から人員、物資、事業者等を投入する支援が不可欠であることは言うまでもありません。
しかし、救援・救護、復旧・復興事業の最終的な目的は、単に目前の膨大な需要を「処理」することではありません。
その究極の目的は、被災者の生活を再建し、被災地域の「自立的な復興」を実現することにあります。
そして、ここで重要なのは、災害対応需要そのものが、被災地にとって二つの側面を持っているという点です。
災害対応の負担を特定の主体に過度に集中させれば、疲労、離職、事業継続の困難などを通じて、担い手の「活力の減退」を招きます。
しかしその一方で、復旧・復興事業の受注や、新たな雇用・所得の確保を通じて、地域の担い手の「活力の増進」をもたらすことも可能です。
したがって、災害対応需要を単なる「処理すべき負担」としてだけ捉えるのではなく、被災者、被災地企業、地域社会の所得や雇用を確保するとともに、人々の希望、意欲、社会的役割を回復し、地域全体の活力を取り戻すための重要な「復興資源」として捉える視点が必要です。
もちろん、これまでの災害対応においても、被災者の雇用や地元事業者の活用などは、個別には実施されてきました。
例えば、復興事業の発注に際して地元企業をできる限り優先するといった取り組みは、決して目新しいものではありません。
しかし、それらは往々にして「個別施策」として散発的に実施されるにとどまり、災害対応全体を貫く基本的な思想として位置付けられてこなかったのではないでしょうか。
その背景には、どうしても被災地・被災者を「支援を待つ人々」として捉える発想が支配的であったことがあるように思います。
もちろん、被災者に対する十分な支援が不可欠であることは論を俟ちません。
しかし、被災者をもっぱら「支援を受ける側」としてのみ位置付けることは、結果として、被災者自身が復旧・復興の担い手となる機会を狭め、地域の自立的な復興を阻害してしまうという逆説的な側面を持ち得ます。
繰り返しますが、各種の「災害対応需要」は、被災地の所得・雇用を確保し、被災者の希望や意欲を回復させ、地域全体の「活力」を取り戻すための重要な「復興資源」でもあります。
それにもかかわらず、被災地を単なる「支援対象」としてだけ取り扱えば、本来ならば被災地の復興に活用できたはずのその資源を、結果として被災者・被災地から「奪い去る」ことにもなりかねません。
したがって、今後の被災地の救援・復旧・復興においては、
「災害対応需要を、可能な範囲で被災地の所得・雇用・事業活動に結び付ける」
という〈原則〉を、災害対応全般を貫く基本方針として明示することが必要だと考えます。
もちろん、災害対応需要を特定の主体に集中させれば、過重労働や疲弊をもたらすリスクがあります。その点には十分な配慮が不可欠です。
その前提の下で、例えば、上記の〈原則〉を念頭に置きながら、次のような対応を進めることが考えられます。
① 災害対応に係る公共調達における被災地事業者の活用:被災地外の事業者による迅速かつ十分な支援を確保しつつ、対応能力を有する被災地内の事業者については、可能な限り積極的に活用する。
② 災害対応業務における被災者・地域住民の有償雇用:災害対応に必要な労働力について、被災地外からの応援人員を確保すると同時に、就労を希望する被災者や地域住民についても、本人の状況に十分配慮しながら、可能な範囲で有償雇用する。
③ 避難所運営等への避難者の有償参加:避難所の運営、物資管理、清掃、炊き出し、情報整理その他の業務について、すべてを外部支援者のみで担うのではなく、就労を希望し、かつ従事可能な避難者については、有償の担い手として参画できる仕組みを検討する。これにより、避難者を単なる「支援を受ける側」として位置付けるのではなく、本人の希望、健康状態、家庭事情等に十分配慮しながら、復旧・復興を担う主体として参加できる環境を整える。
④ 行政補助業務への被災者・地域人材の活用:被災者支援に伴って大量に発生する行政補助業務についても、専門職員が担うべき業務との区分を明確にした上で、就労を希望する被災者や地域人材を有償で任用する。例えば、物資管理、各種申請の案内、情報整理、地域内の連絡調整、避難者ニーズの把握などについて、適切な研修と管理の下で地域人材を活用することが考えられる。
⑤ 平時からの制度的準備:中長期的には、こうした被災地内での発注・雇用を迅速に促進できるよう、国は、災害対応事業の発注制度、雇用制度、財政措置等について、平時から制度的な準備を進める。
以上のような対応を通じて、災害対応のために投入される公的資金を、可能な限り被災地の所得、雇用、事業活動へと還流させることができます。
同時に、被災者自身が復興の「担い手」として社会的役割を取り戻し、希望、意欲、活力を回復していくことにもつながります。
つまり、
「災害対応需要への対応」と「被災地の経済的・社会的・心理的な復興」を同時に進める
ことが可能となるのです。
そしてそれは、復旧・復興そのものの迅速化と、地域の自立性の向上にもつながるものと考えられます。
繰り返しますが、こうした取り組みは、これまでもさまざまな形で試みられてきました。しかし、それらが災害対応全体を貫く明確な原則の下で、過不足のない「最も適切な水準」において展開されてきたかと言えば、なお大きな改善の余地があるのではないでしょうか。
現状では、せっかくの「復興資源」である「災害対応需要」が限定的にしか活用されておらず、そのことがかえって地域の自立的復興を遅らせてしまっている可能性すらあります。
だからこそ、被災地の関係各位と丁寧に情報交換を重ねながら、「災害対応需要」を、避難者・被災者を含む被災地の人々や企業の自立的復興のための「資源」として、適切に活用していく取り組みを加速することが重要だと考えます。
被災地が一日も早く復興を遂げ、その先に自立的な発展を実現されることを、心より祈念いたします。
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