本日,政府において「概算要求」が提出される予定となっています.
https://news.web.nhk/newsweb/na/nd-20260830de47308
「概算要求」とは,政府が次年度予算を決定するにあたっての重要な「第一ステップ」にあたるもので,
『各省庁からの「次年度はこれだけの予算が必要だ」という予算要求』
を意味します.
例えば昨年は総額が一般会計で「約122兆円」でしたが,今年は,これを遙かに超える「約140兆円」という「過去最高水準」になるだろうとの見通しが今,報道されています.
なぜ,今年はそれほど大きなものになるのかといえば,高市政権の「責任ある積極財政」の方針の下で,「概算要求のやり方」が抜本的に変更されることとなったからです.
昨年までは,以下のようなプロセスで概算要求が行われていました.
1)次年度の予算総額はPB規律の下で,おおよそ決まっていた.
2)結果,各省庁の予算も,前年度とほぼ同水準で,省庁ごとに割り振られた微増枠があてがわれる程度で「決着」することがおおよそ決まっていた(シーリング制約).
3)その前提の下,概算要求は「前年予算より(最大)2割程度増し」で行う(その際,財務省の査定によって,要求段階で上乗せした部分の相当程度が減額され,最終的にはおおむね想定された予算枠に収まることが,事前にある程度織り込まれていた).
4)なお,その予算で不足しているのなら,「補正予算」の枠組みの中で,各省庁と財務省が折衝をして,予算充当を模索する.
しかし,今年はこの1)~4)のプロセスが,以下のような極めてシンプルなものへと抜本的に変更されることとなったのです.
1)各省庁は,必要な予算を要求する.
2)財務省は,その内容を査定し,是々非々で採否・増減額を決める.
したがって,今年は,単年度PB目標や従来型のシーリングによって要求段階から機械的に抑え込む方式が大幅に後退し,必要な政策経費をまず要求した上で,財務省査定の過程で政策効果や財政の持続可能性を勘案して取捨選択する方式へと転換したのです.また,従来,補正予算で措置してきた恒常的経費についても,可能な限り当初予算に取り込む方針となっています.
この「コペルニクス的大転換」とも言い得る予算策定プロセスの変更がもたらされたわけですから,今年の概算要求額が昨年度を上回るのは,当然の成り行きだということになります.
特に,これまで補正予算で措置されてきた経費についても「含めて」概算要求がなされているのですから,その分増額されていなければ,事実上昨年度よりも「予算削減」となるわけですから,当然です.
ましてや,今年の骨太方針では,「責任ある積極財政」の方針の下,「危機管理投資」や「成長投資」を拡大していく方向性が明確に示されています.その意味でも,各省庁がこれらの分野に関する概算要求を増額することは,現内閣の政策方針に沿った当然の対応であるといえます.
ただし,ここで重要となるのが,「では,財政規律は無くなっているのか?」という点ですが,言うまでもなく,現政府においても財政規律は存在します.
実際,総理は,以下の読売新聞のインタビューを通して『新規国債発行額は40兆円程度に抑える考えを示した。』と報道されています.
https://news.livedoor.com/article/detail/32178094/?utm_source=chatgpt.com
これは,今後の概算要求の財務省「査定」において,極めて重要な意味を持つ可能性があります.
つまり,PBという形ではないものの,この40兆円という数字が,今後の予算査定における一つの重要な財政上の「目安」として機能する可能性があるからです.
この40兆円という数字がもしも,より大きな60兆円や80兆円なら,より多くの要求事項を認める財政上の余地が生じることになりますが,40兆円ならば,昨年と比べてさして大きな増加はない,という可能性も考えられることになります.
実際,下記ロイター記事でも報道されているように,本年度予定されている新規国債発行額は32.7兆円ですから,仮に次年度の新規国債発行額を40兆円程度とすれば,新規国債による財源調達額は単純計算で7兆円程度の増加ということになります.
7兆円を多いと見るか少ないと見るかは立場によって異なると考えられますが,重要となるのは,その7兆円の増額,あるいは新規国債40兆円という数字の「根拠」が一体何なのかという点です.その根拠は上記の報道だけでは明確ではありませんが,骨太方針に明記されている「政府債務残高対GDP比の安定的引き下げ」が一つの重要な根拠となっていると考えることもできます(以下,簡略化のために債務対GDP比と呼びます).
これは,言い換えれば,「債務の増加率を,成長率以下に抑える」という規律です.成長率の方が債務の増加率よりも高ければ,GDPに対する債務の比率は,引き下がっていくからです.
例えば政府債務が1000兆円で,来年,名目GDPが3%成長すれば,政府債務が1030兆円になっても,債務対GDP比は変わりません.したがって,政府債務残高の増加率を3%未満に抑えることができれば,債務対GDP比は引き下がる,ということになります.
ただし,本来は,金利上昇によって債務が拡大する部分があるので,国債発行余地は減ってしまう一方,国債発行によって予算を拡大すれば,それによって経済が成長したり,税収が増えたりすることで,国債発行余地がさらに大きなものとなる,という側面もあります.
ついてはこの度,概算要求の査定がまさに始められることとなるこの機会に,現在の日本の経済規模や政府の債務残高,金利水準,政府想定のGDP成長率などを加味した上で,どの範囲の国債発行額ならば,債務対GDP比が引き下がるのかを,当研究室にて試算いたしました.
試算の詳細は,当研究室のHPに下記の形で掲載していますが,ここでは,その結果だけをかいつまんで解説いたしたいと思います.
『「債務対GDP比の引き下げ」規律による、国債発行余力の試算 ― 令和9年度を想定した数値シミュレーション ―』
(掲載ページ:https://trans.kuciv.kyoto-u.ac.jp/tba/member/fujii/journal)
この試算では,以下の5ケースにおいて「国債発行余力」を試算いたしました.
① 基礎成長3%のみを考慮した国債発行余地
② 金利を考慮した国債発行余地
③ 日本の一般会計に固有の60年償還ルール対応償還費の繰入額を考慮した国債発行余地
④ 「追加政府支出」がGDPを押し上げる(一次)効果を考慮した国債発行余地
⑤ その追加GDPから税収・社会保険料等が増える効果を考慮した国債発行余地
試算の詳細は,上記の研究資料の本文(https://x.gd/aFfgLy)をご覧いただければと思いますが,結果だけ掲載すると,以下となります.
【表 「債務対GDP比の引き下げ」規律に基づく、国債発行余力の試算結果】
本試算によると,全ての要素を考慮すると,中央政府において約70兆円(幅推計では53兆円から約80兆円規模),中央と地方を合わせた一般政府においては約90兆円弱(幅推計では63兆円~106兆円)の,国債発行余地があるということになります.
(注:なお,その中には,約17兆円の「60年償還ルール対応の償還費のための国債発行」も含みます).
ところで試算ケース③がちょうど中央政府において「40兆円」となっていますから,総理発言で言及された新規国債発行額は,本試算によればこのケース③に対応する水準となります.
しかし,本試算によれば,「この国債発行によってGDPが拡大する効果」を考えれば,さらに国債発行余地は,中央政府において12兆円~38兆円程度拡大することになります(なぜなら,GDPが拡大すれば「債務対GDP比」の分母の拡大によって「債務対GDP比」が引き下がる効果が得られ,その結果,国債発行余地が拡大するからです).
さらに,「この国債発行によってGDPが拡大することで税収が増える」効果を加味すれば,さらに余地が拡大するということも示されています.
無論,総理が示唆した「40兆円の国債発行を目安とする」という基準の根拠は明示されていませんから,以上の議論はあくまでも参考の議論というものでありますが,少なくとも,債務対GDP比を財政規律とするのなら,本試算で考慮した,積極財政による成長や税収増も加味した検討が,より合理的であるという点は,ここで改めて申し上げておきたいと思います.
政府が掲げる「力強い経済成長」を遂げるためにも,本試算で示した考え方を是非,政府においてもご参照いただきたいと,心から祈念いたします.
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