米国のベッセント財務長官が、日本に「リフレ政策をやめろ」と要求した――。
この数日、日本ではそんな報道が相次いでいます。
例えばテレビ朝日は、
「木原長官『積極財政変わらず』米政策転換要求に対し」
との見出しで、ベッセント氏が「財政支出の拡大や低金利を重視するリフレ政策からの転換を日本に求めた」と報道しています。
https://news.tv-asahi.co.jp/news_politics/articles/000530839.html
またTBSも、
「片山財務大臣“リフレ政策をとっていない”と主張 ベッセント米財務長官の『リフレ政策をやめるべき』発言めぐり」
として、ベッセント氏の発言を「大規模な金融緩和や積極財政からの転換を促した発言」と解説しています。
https://newsdig.tbs.co.jp/articles/withbloomberg/2920079
こうした報道だけを見れば、「アメリカが高市政権に積極財政をやめろと要求している」という印象になります。
ところが片山さつき財務相は、ベッセント氏からは「特に注文はない」「一方的な政策の要求はない」と明言しています。
https://smart.asahi.com/v/article/ASV934173V93ULFA01CM.php
さて、一体どちらが本当なのでしょうか?
そこで今回は、ベッセント氏が問題の発言をしているオリジナルのYouTube動画を冒頭に掲げ、その言葉そのものをベースに解説したいと思います。
https://www.youtube.com/watch?v=jrlT9gym0uo&utm_source=chatgpt.com
結論から申し上げます。少なくともこの会見でベッセント氏が実際に語った言葉を素直に読めば、片山大臣の説明の方に圧倒的に分があります。
確かにベッセント氏は、
“Now they should actually let that run and stop the reflation.”
(今やその成果を走らせ、リフレは止めるべきだ)
と発言しています。
しかし、その直前にはこう言っている。
“We've talked to the Japanese and I've said they had a tremendous success in Abenomics.”
(日本側とも話したが、アベノミクスは大変な成功だったと私は伝えた)
さらに日本人記者から質問されると、
“Abenomics, which was designed to bring Japan out of disinflation, was a reflationary program, has worked.”
(アベノミクスは日本をディスインフレから脱却させるリフレ政策であり、それは成功した)
と説明し、
“If inflation is 2%, they've succeeded in reflating.”
(インフレ率が2%なら、リフレに成功したのだ)
と述べています。
つまりベッセント氏の論理は、
デフレ・ディスインフレだった
→ アベノミクスでリフレした
→ 2%インフレを達成した
→ リフレは成功した
→ だから次の段階へ進め
というものなのです。
しかも氏は、アベノミクスによる企業改革や規制改革を高く評価し、現在の日本を“one of the most vibrant economies in the world”――「世界で最も活力ある経済の一つ」とまで評しています。
つまりこれは、「日本は積極財政をやめろ」という一方的な要求とは随分違う話なのです。
ただし……ベッセント氏の議論にも一つ大きな問題があります。それは…
『「インフレ率が2%になった」だけで、本当にリフレ完了と言えるのか?』
という点です.
現在の日本の物価上昇には、円安、輸入燃料、電気、食料、原材料価格等によるコストプッシュ要因が大きく含まれています。
したがって、
「2%インフレ」=「国内需要が十分に回復した」
とは限らないのです.
ならば、ガソリン・燃料・電気料金への支援や減税等によってコストプッシュ・インフレを抑えながら、その結果生じる物価安定の余地を活用して、需要不足を埋める財政・金融政策を続ければよい。
つまり、
「コストプッシュ・インフレを抑えること」と「その範囲でリフレを続けること」は両立する
のです。
しかも興味深いことに、ベッセント氏自身、米国については、
“We have temporary elevated energy prices and these prices will come down.”
(現在エネルギー価格は一時的に高いが、これは下がってくる)
と述べています。
つまり彼自身、「物価が何%か」だけでなく、「なぜ物価が上がっているのか」を見る必要があることは理解しているのです。
ならば、日本のインフレの中身、そしてコストプッシュを取り除けばなお残る需要不足について丁寧に説明すれば、ベッセント氏も、
「それならコストプッシュを抑えながら、その範囲で需要を支える政策を続ければよい」
という考えには十分同意するのではないかと思います.
今回の発言を見る限り、ベッセント氏の問題は「リフレ政策そのものを否定している」ことではありません。
日本の現在のインフレについての「解像度」が、まだ十分に高くないのです。
そして何より今回改めて感じるのは、政治家の発言は、見出しや数秒の切り抜きではなく、できる限り一次資料そのものを確認する必要があるということです。
「米国が高市政権に政策転換を要求した」と受け取るのか、「アベノミクスは成功したから次の段階へ進むべきだ」と評価していると受け取るのかでは、意味は随分違います。
今回は、少なくともベッセント氏自身の発言を通して見る限り、片山大臣が言う「一方的な政策要求はなかった」という説明には十分な整合性があります。
皆様も、メディア報道、とりわけ刺激的な見出しや切り抜きには、くれぐれもご注意いただきたいと――思います。
追伸1:本メルマガの定期購読は,コチラから↓
https://foomii.com/reader/check/00178
追伸2:筆者(藤井聡)へのご意見、ご感想は、このメールアドレス宛てにお送りください。
配信記事は、マイページから閲覧、再送することができます。
マイページ:https://foomii.com/mypage/
【ディスクレーマー】
ウェブマガジンは法律上の著作物であり、著作権法によって保護されています。
本著作物を無断で使用すること(複写、複製、転載、再販売など)は法律上禁じられています。
■ サービスの利用方法や購読料の請求に関するお問い合わせはこちら
https://letter.foomii.com/forms/contact/
■ よくあるご質問(ヘルプ)
https://foomii.com/information/help
■ 配信停止はこちらから:https://foomii.com/mypage/

新しいコメントを追加