… … …(記事全文4,226文字)●拉致の目的 日本政府の見解
なぜ北朝鮮は日本人を拉致する犯罪を行ったのか?
拉致問題対策本部及び外務省のホームページ内のQ&Aには以下の記載がある。
Q:なぜ北朝鮮は日本人を拉致したのですか?
A:北朝鮮が拉致という未曾有の国家的犯罪行為を行った背景には、工作員による日本人への身分の偽装、工作員を日本人に仕立てるための教育係としての利用、北朝鮮に匿われている「よど号」グループによる人材獲得、といった理由があったとみられています。
つまり、目的は以下の三つであるとしている。
①工作員が日本人を装うこと
②工作員教育の一環として日本語教育を行うこと
③「よど号」グループが仲間を獲得すること
①については、「背乗り」と呼ばれ、例えば工作員辛光洙が拉致被害者原敕晁さんを名乗り、原さんの自動車運転免許証やパスポート、国民健康保険証などを取得し、海外で工作活動を行っていた。
②の例としては、大韓航空機場爆破事件の犯人である金賢姫の教育係だった李恩恵こと田口八重子さんが挙げられる。
③1970年に日航機をハイジャックし北朝鮮に渡った「よど号」グループが、仲間を獲得するため、少なくとも3人の日本人をヨーロッパから拉致した例がある。
●抜け落ちた「目的」 工作員に養成されること
上述した3項目から、重要な「目的」が抜け落ちている。それは、拉致した日本人に対し教育・訓練を施し、そのまま工作員として仕立て上げることである。
弟薫は帰国当初、私の問いに対しこう答えていた。
「俺たちを拉致したのは、祐木子が本当の狙いで、俺はおまけみたいのものだ。祐木子を女性スパイとして養成し、世界を暗躍させるつもりだったんだ。ところが、拉致されたレバノンの女性が逃亡してしまったので、カップルを狙った。俺は祐木子が北朝鮮に戻って来るための人質なんだよ」
この発言から、拉致した日本人を工作員にしようとしていたことが分かる。当初は女性工作員が主だったが、その後男性も工作員に起用していた。したがって、弟は「おまけ」ではない。また、レバノン女性の逃亡は、1979年の出来事であり、弟が拉致された1978年には関係していない。弟の答えは、時系列的に矛盾する点はあるものの、大筋では事実と合致している。思いがけない日本への帰国で混乱していたのだろう。
●レバノン女性の逃亡 突然の工作員養成計画中止
レバノン女性が逃亡した1979年、その年の暮れには、日本人の工作員養成計画は中止されている。しかし、地村保志さん夫婦と弟夫婦ともに、拉致された直後は、自分たちは工作員にされると感じていたという。
弟は以下のとおり語っていた。
「なぜ拉致をするのかという点については、北は我々を工作員として使おうとしていたのだろう。実際、そういう雰囲気はあったし、指導員からは『日本に言って東大生と仲良くなれ』と言われていた」
「このまま教育が進んでいたら、スパイ学校(金正日政治軍事大学)に行くことになっていたかも知れない」
地村保志さんもこう語った。
「拉致直後の1979年1月頃には、自分たちは学校に送られて工作員としての訓練を受けるということだった」
地村富貴恵さんは、拉致実行犯の辛光洙から以下のとおり聞かされていた。
「工作に使うために拉致してきた」
「工作員になるには、名前、生年月日など。本当のことを言っては駄目だ」
また、田口八重子さんの兄、飯塚繁雄さんへの手紙に次のとおり記している。
「私(富貴恵さん)は生年月日も10日遅れにしたりしていました。その時は八重ちゃん(田口八重子さん)も7月7日が誕生日でしたが、本当の誕生日は日本に帰って来てから分かりました。だからお互い誕生日は、違う日に祝っていた訳です」
これらを受けて、日本政府による拉致被害者への聴取をまとめた文書(「極秘文書」)には、次の記載がある。
「拉致の目的について、北朝鮮側は、『日本語教育』や『身分隠しのため』と説明しているが、5人の発言からすれば、拉致そのものの目的に、『拉致被害者を工作員として養成して再度日本(または海外)に派遣する』ことも含まれた可能性が十分考えられる」
すなわち、日本政府が拉致の当初の目的は、「工作員として養成すること」であったと認めたのである。しかしながら、政府の公文書等では全く触れられていない。この理由は、不可思議なことに明らかではない。
