… … …(記事全文3,548文字)●高市首相施政方針演説・日米首脳会談における拉致問題
高市早苗首相の施政方針演説における拉致問題・北朝鮮部分は以下のとおりである。
「北朝鮮による全ての拉致被害者の御帰国を、私の任期中に実現したい。そのように強く決意しています。金委員長との首脳会談をはじめ、あらゆる選択肢を排除せず、突破口を開くべく取り組んでいます。また、我が国にとって従前よりも一層重大かつ差し迫った脅威となっている核・ミサイル開発は、断じて容認できません」
従来と変わる表現は一つもなく、「最重要課題」が削除されるなど文言が少なくなり、後退している感が否めない演説であった。
また、高市首相は日米首脳会談の内容に関して次のとおり、国会で報告した。
「北朝鮮については、完全な非核化に向けた確固たるコミットメントを確認しました。拉致問題の即時解決について私自身の決意をお伝えするとともに、引き続きの理解と協力を求め、トランプ大統領から全面的な支持を得ました。さらに自由で開かれたインド太平洋を共に力強く推進していくことを確認しました」
相変わらずのアメリカ頼みである。トランプ大統領から全面的支持を得たからと言って、過大な期待を寄せるのは誤りである。世界中を混乱に陥れている、あのトランプ大統領が、北朝鮮に拉致された日本の被害者を救出するだろうか?考えればすぐに分かることである。
●金与正朝鮮労働党副部長の談話
これらの発言に反応したものかどうか明らかではないが、北朝鮮の金与正朝鮮労働党副部長が、朝鮮中央通信を通じて談話を発表した。
「日朝首脳会談は日本が望むからといって実現する問題ではない」
「日本が一方的に設定した議題の解決を前提とするのであれば、会談に応じるつもりはない」
「(拉致問題は)我々が認めていない一方的な議題だ」
「両国首脳が会うためには、日本が時代錯誤的な慣行と決別する決断を下さなければならない」
「実現不可能な主張に固執する相手とは向き合って話すことはない」
「日本の首相が平壌を訪れるような状況は望まない」(個人的見解)
(江南タイムズから)
こちらも、相変わらず厳しい口調の談話である。拉致問題は「日本が一方的に設定した議題で我々は認めていない」「時代錯誤的な慣行」すなわち、従来と変わらず「解決済み」で今度は「過去のもの」とした。また、日朝首脳会談については、「日本が望むからといって実現するものではない」「実現不可能な主張に固執する相手と向き合って話すことはない」と、その実現可能性を強く否定した。
北朝鮮側が強く否定することはよくあること。そういう時には、言葉とは裏腹に日本へ秋波を送っている場合がある、とする専門家もいる。しかし、これだけのことを言われ、高市政権はどう打って出るのだろうか。一筋縄ではいかないことは覚悟しておかなければならない。
●日朝交渉と拉致問題
日朝交渉の山場は、小泉純一郎首相(当時)の訪朝と首脳会談であった。あれから、24年が経過しようとしている。日朝交渉を担うのは、外務省の外交官である。実は、彼らにとっての最重要課題は、拉致問題ではなく、日朝国交正常化である。その姿勢が、拉致問題の進展を妨げていることについては、旧稿でも触れた。
例えば、日朝首脳会談で金正日総書記が拉致を認めて謝罪したことを受け、小泉首相は日朝平壌宣言に署名してしまった。これは、拙速な行動で、被害者「5人生存、8人死亡」と言われたのであれば、それらの裏を取る必要があった。しかし、国交正常化を急ぐあまり、相手の言うことを鵜呑みにしてしまった。田中均氏の水面下協議で描いた筋書き通りだったのかも知れない。
とにかく、外務省の拉致被害者たちの人権への配慮は極端に希薄である。救出しようとか、「死亡」は真実なのかといった意識は、ないに等しい。したがって、彼らが、帰国してからの世論の盛り上がりに驚き、混乱したのは想像に難くない。
「拉致問題が国交正常化の障害になっている」。つまり、早急に拉致問題を片付ける必要がある。特に、横田めぐみさんの「遺骨」を巡る北朝鮮とのやり取りは、外務省の意向を象徴的に示すものだった。
●藪中訪朝団
2004年11月、藪中三十二(やぶなか・みとじ)外務省アジア大洋州局長を団長とする日本側代表団が訪朝した。主な目的は、拉致被害者の安否に関する「再調査」結果を受け取ること、また第三次実務者協議と位置付けられ、拉致問題の解決に向けた重要なステップと期待されていた。
私が訪朝団に望んだのは、「再調査」結果などではなく、めぐみさんの真の入院先つまり北朝鮮側が主張する平壌の「49号予防院」ではなく、義州(ウィジュ)にある「49号予防院」の現地調査だった。これは、薮中団長にも念押しした。
しかし、訪朝団は義州へ行くことなく、帰国した。「なぜ行かなかったのですか」と声を荒らげると、「ごめんなさい。めぐみさんの『遺骨』が出てきてしまったんです」と言い訳する担当者。藪中氏が強く求めると「遺骨」が出てきたという。
この動きについて、拙著「拉致被害者たちを見殺しにした安倍晋三と冷血な面々」(2015年 講談社)では、「『それでは遺骨を出しましょう。ただし、摂氏1200度の高温で焼いた遺骨なので、鑑定は不可能です』と北朝鮮側が条件付きで提供したのだが、日本側は、むしろそのほうがありがたいと、意図的な判断をして受け取ったのではないか、私はそう邪推している」と記した。意図的な判断とは、北朝鮮側が見つかったと公表し、訪朝団が「遺骨」を持ち帰る。鑑定不能であるが、結果的にめぐみさんの「死亡」を日本側が受け入れる。これで、熱い世論は沈静化するということだ。
「邪推」と書いたが、実は正しい推測だった。それを裏付ける動かぬ証拠を入手したのである。
