… … …(記事全文3,428文字)●「夜海岸には近寄るな」
私が幼いころから、夏になると家族に「海岸には不審な人がいる。暗くなったら近寄るな」と言われていた。何の根拠か知らないまま、怖いという感情だけで、従順になっていた。果たして、海上保安庁が初めて確認したとする不審船・工作船は、1963年6月1日の山形県酒田市十里塚海岸沖においてである。それ以降、日本海側を中心として、毎年のように確認されている。家族の注意喚起は迷信ではなく、事実に基づいたものだったのである。
夏の海に夜は近寄るな、と注意されながら育ったはずの私たちきょうだい。そのうちの一人が、北朝鮮の工作船によって連れ去られるとは、夢にも思わなかった。北朝鮮の工作船というのは、弟が失踪して帰国するまでは分からなかったことである。その工作船は、徐々に高性能化されており、弟が拉致された1970年代後半には、ほぼ完成の域に達していたという。
●工作船は高性能 海保の船は追いつけない
工作船は、三層構造になっている。本船は、全長約30メートル、最高時速約60キロメートル(33ノット)で船尾には、観音開きの扉(ハッチ)がある。その奥には小型舟艇(子船)が格納されている。子船は全長11メートル、3基の大型エンジンを搭載し、最高時速は約90キロメートル(50ノット)と超高速だという。子船には、ゴムボートと水中スクーターが積まれており、海岸への上陸の際に使用する。本船、子船ともに驚きのスピードであることから、当時の海上保安庁の巡視船はとても追いつくことができなかった
