… … …(記事全文8,302文字)石川や浜の真砂は尽くるとも世に盗人の種は尽くまじ-。
これは大泥棒・石川五右衛門が京都で処刑される直前に詠んだとされる辞世の句である。石川の浜の砂がなくなることはあっても、世の中から悪人や悪事が消えることはないという非常にシンプルな真理を突いたものである。「石川」とは五右衛門自身のことで、自分が死んでも盗人という存在は世から消えないという、ある種の逆ギレか開き直りなのか、社会への皮肉を込めて述べたものだ。
ただし、この有名な句は史実に照らすと、石川五右衛門本人の作である可能性は低いとされ、江戸時代に入ってから創られた五右衛門を主人公にした歌舞伎や浄瑠璃の中での創作だとされる説が根強い。その真偽はともかく、ここには盗賊の言葉以上の普遍性があるのは確かだ。それは人間の欲望は尽きず、社会には必ず不正や犯罪が生まれ、理想社会は実現しないという、人間社会の構造的問題を一気に言い当てている点である。
いまの日本を見渡しても悪事が消え去ることはない。現代では「オレオレ詐欺」や「ニセ警官詐欺」、また財務省や税務署などを騙った「還付金詐欺」というものまである。中でも最近よく耳にするのが警察官を騙ったニセ警官詐欺である。警察庁の調べによると、2026年上半期だけでもニセ警官詐欺の被害総額は約508億円もあるという。1件あたり約1163万円にもなるから驚きだ。
https://www.npa.go.jp/bureau/safetylife/sos47/new-topics/260731/01.html
ニセ警官詐欺についてはマスコミも注意を呼びかける報道を繰り返している。また、実際にニセ警官とのやり取りを個人が録音・録画し、それをYouTubeなどのネットで流す事例も多い。この手の詐欺電話をかけてくるのは東南アジアなどの海外からが多いようで、犯罪拠点が現地の警察に踏み込まれる様子を日本のマスコミも報じている。
これほど世間は詐欺に注意を呼びかけているのに、それでも騙される人は絶えない。今年の上半期だけで500億円以上の被害があり、おそらく今後も新手の詐欺が続々と現れることだろう。まさに、「世に盗人の種は尽くまじ」である。
ネット社会で情報があふれている現代社会で、なぜ騙される人が絶えないのか。詳しい解説は専門家に譲りたいが、考えるに、いまの世間は人間の心理と社会構造が詐欺師にとって都合がいいからではないか。これは個人の注意力の問題ではなく、詐欺師が人間の弱点と社会の仕組みを徹底的に研究している結果だろうと思われる。
たとえば、警官を騙る詐欺師から「警視庁です」「◯◯県警です」と名乗られると、それだけで受け手は動揺する。そこに「今日中に◯◯県警に来てほしい。そうでなければ逮捕される」などと言われると冷静に判断するより先に「なんとかしなければ」というパニックとなり、相手の言いなりになってしまう。とくに騙されやすいのが孤独な高齢者だという。ふだん誰かと話をする機会が少なく、相談する相手もいない。そこへ電話の向こうから「警察です」と名乗られ、警察の専門用語を矢継ぎ早に並べ立てられると権威と権力にひれ伏してしまうようだ。あるいは、孤独とは無縁の高齢者でも、自分には知識と経験が豊富だと過信している人ほど危ういと言われている。
わたしが週刊誌記者だった時代、殺人や誘拐などの事件以外にも、大型の詐欺事件をよく取材した。その中の1つに大阪で高金利を謳い文句に出資金を巻き上げる悪質な案件があった。銀行の定期預金金利がせいぜい1~2%の時代に郊外に派手な看板を上げ、そこに「金利7%」と宣伝する金融業者があった。すでに当時は低金利の時代。そこから考えても怪しすぎるので、わたしは先行して取材。そのうち、大阪府警の捜査二課が密かに捜査をしていることも耳にした。
取材の過程で、この金融業者に数千万円単位のカネを預けたという高齢の男性に会うことができた。男性いわく、「わたしは金融に詳しい。昔は7、8%の金利は当たり前。いま7%でもおかしくはない。この金融業者はまともだ」と笑っていた。そのうち、大阪市に本社があるこの金融業者は大阪府警に踏み込まれ、経営者や役員は軒並み逮捕された。大阪地検は起訴し、裁判で経営者らは懲役刑を言い渡された。もちろん、この高齢男性が預けたカネが露と消えたのは言うまでもない。
詐欺に騙される人は、すべてとは言わないが、意外なことに自分の知識や判断を過信しすぎるようである。「自分は◯◯に詳しい」「論理的で冷静な判断ができる」と自信満々な人に限って、どうしたわけか詐欺師が掘った落とし穴に落ちてしまうようだ。何ごとも過信は禁物である。
さて、ここからが本題である。詐欺以外の世界、たとえば政治問題でも騙される人は少なくない。たとえば大阪市廃止・特別区設置構想(いわゆる大阪都構想)がそうではないか。過去2度の住民投票で反対多数になり、死んだと思われた同構想はゾンビのように蘇ろうとしている。しかも、腐臭を放つそのゾンビに期待する人は多い。これが大阪を救う最善の都市制度改革だと信じて疑わない人が存在するのは、いったいどうしたわけか。

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