… … …(記事全文7,838文字)「バズる」という言葉がある。X(旧ツイッター)やTikTok、YouTubeなどの動画サイトで、投稿した内容が短時間のうちに爆発的に広がり、多くの人の注目を集めて再生回数が上がる現象のことだ。語源は英語の「buzz(バズ)」で、ハチがブンブンと羽音を立てて飛ぶ様子や、人々がざわめく雰囲気を表している。これが、人々が特定の話題に注目し、群がるように騒いでいる状況を指すようになった。SNS時代ならではの現象で、Xなどでも話題の投稿が「バズっている」と表現される。ちなみにアメリカには『BuzzFeed』というネットメディアがあり、日本版も存在するが、このバズも同じ意味である。
一方、「炎上」というネット用語もある。「バズる」が好意的に広まる肯定的な注目であるのに対して、「炎上」は批判や非難が殺到する注目だ。どちらも「多くの人に見られる」という点では同じだが、その内容を認識して広める感情の質が真逆であることが最大の違いである。「面白い」「感動した」「驚いた」「役に立つ」という前向きな感情がバズを生むのに対して、「怒り」「不快」「失望」といったマイナスの感情が炎上を生む。炎上の場合、「これは問題だ」「広めて批判すべきだ」という正義感が拡散を加速させている。
ただし、最近のSNSを見ると、バズる投稿よりも炎上する投稿が圧倒的に目立つ。たとえば、よく話題になるのが、アルバイト先の飲食店で不衛生な動画をSNSに投稿して炎上するケースだ。ネットが騒ぐことで事態が大きくなり、その飲食店の経営者は謝罪し、店内を消毒するために営業休止を余儀なくされる。最悪の場合、店自体が廃業に追い込まれることもある。このような問題はいまも絶えず、そのたびにネット社会は炎上する。それでも、時間が経つと同じような問題が起きるが、なぜこのような愚行が繰り返されるのだろうか。
飲食店アルバイトによる不衛生動画の炎上を例に挙げると、その背景には若者の承認欲求とSNS文化が根底にあるのは間違いない。さらに、職場の管理体制の弱さ、経営者とアルバイト双方のリスクに対する認識不足、企業の労働環境の脆さ、そして炎上後の責任をめぐる歪みが複雑に絡み合っている。
個人の面から見ると、SNSでの承認欲求がバズ文化や炎上現象を引き起こしてしまう。「面白い動画を上げれば注目される」という即時的かつ短絡的な感情が先に立ち、友人同士のノリで不衛生な行為までネタにしてしまい、その動画がそのままネット上の公開空間に出てしまう。「面白い」「すごい」と思われたいという欲求が、やってはいけないルールを破るスリルと結びつき、行動がエスカレートする。まさに承認欲求の暴走である。
その心理の背景にはリスクを認識する力の欠如だ。言い換えれば、社会的な想像力が圧倒的に不足していることである。自分の行動が会社にどれほどの損害を与え、世の中にどれほど迷惑をかけるのかを想像できない。ネットは遊び場だという感覚が抜けず、炎上のスピードや規模を理解していない。このような人たちを世間一般では「バカ」と呼ぶ。大阪弁では「アホ」と言って蔑まれるが、最も根底にあるのはSNS特有のコミュニケーション感覚である。仲間内の投稿だという錯覚から抜け出せないのだ。投稿した本人は、知り合いのフォロワーだけに向けた内輪ウケのつもりでいる。しかし、ネットの世界は物理的な壁のない「公道」であり、そこでの行動が世界中に繋がっているという意識が抜け落ちているのだ。
リスク認識の欠如のほかに、職場を公共の場ではなく遊び場のように捉えてしまう歪みもある。厨房は外から見えにくい閉鎖的な空間であるため、仲間内の悪ふざけがエスカレートしやすい。「お客さんに見られていないから大丈夫だろう」という誤った感覚が働きやすい環境なのだ。

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