… … …(記事全文4,460文字)1990年代のバブル崩壊以降、内需に依存するようになった日本経済は低空飛行を脱することができず、世界における経済的な地位は低下の一途をたどっている。ところが、日本の医療は国内総生産(GDP)の成長率を大きく上回る膨張を続けてきた。国民が貧しくなっていく中、どうして膨張が可能なのかといえば、医療が国民を自分たちに依存するよう仕向けていったからだ。いわば、医療が国民を「搾取」する仕組みを、社会に組み込んでいったのだ。
それを意識して我々のまわりを見渡せば、いかに現代人の暮らしの隅々にまで医療が浸食しているかが、分かるはずだ。たとえば、睡眠は「7時間がもっとも長生き」とされており、毎朝、「何時間眠れたか」を気にする人が多い。1日の歩数も8000歩が理想とされている。毎日スマホの歩数計をチェックして、歩き足りない分をウォーキングで補おうとする人たちもいる。
食事の内容も重要視されている。「カロリーを摂り過ぎると肥満する」「糖質を摂り過ぎると血糖値が上がる」「脂質を摂りすぎるとコレステロール値が上がる」「塩分を摂り過ぎると血圧が上がる」──等々。近年は、コレステロールや塩分の悪玉説に異論も出ているが、これらの摂り過ぎが健康に悪く、病気のリスクを上げるとされていることは、ほとんどの人が知っているはずだ。
また、私たちは清潔についても、強く意識して生活するようになった。たとえば台所仕事をする場合には、ほとんどの人が手を洗うところから始める。料理をするときも食品の賞味期限を気にして、古いものは念のため火を通したり、諦めて捨ててしまったりする。そして洗い物の際には、仕上げにまな板等に除菌スプレーをかける人も多い。なぜそんなことをするのか、それはそこに、細菌やウイルスがいることを知っているからだ。
季節に応じた対策も求められる。夏は熱中症予防のために水分と塩分を意識して摂り、猛暑日は我慢せずエアコンを入れるように呼びかけられる。また冬には脳卒中や心筋梗塞が増えることも知られている。とくに風呂あがりに急に冷めると危険なので、脱衣所にヒーターを置く高齢家庭も多い。もちろん、コロナやインフルエンザなどの感染症も高齢者には怖いので、よく寝て、よく食べて、よく笑い、「免疫力を下げないように」などと言われる。
こうした健康に関する知識を、我々は常識として持っており、日々なにげなく口にしたり実践したりしている。もちろん病気を予防するために、健康によいとされることをするのは、悪いことはでない。昔から「よく眠り、よく働き、よく食べ、くよくよしないこと。ただし暴飲暴食をせず、腹八分目にすること」が、「養生訓」とされてきた。また、人類が清潔を心がけるようになってから、感染症の脅威が大幅に減ったのも確かだ。
だだ、ここで読者に気づいてほしいのは、古(いにしえ)から受け継がれてきた養生訓的な言葉が、「ことごとく医療の言葉に置き換えられている」ということだ。よく眠り、よく歩くことが大切なのは知られていても、「7時間がもっとも長生き」「8000歩が理想的」などといった数字を、昔の人は考えもしなかっただろう。また、そこら中に実は細菌やウイルスがいることも、その知識が広まるまで知られていなかった。
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