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鳥集徹(ジャーナリスト)

鳥集徹

#137 コロナワクチンが「突然死リスク」を下げる? ~レベルの低いエビデンスを水戸黄門の印籠にするな~

「新型コロナワクチンが突然死を起こすのではないか、という懸念が広がっていましたが、これを検証した研究がカナダから報告されました。結論として、新型コロナワクチンは突然死のリスクをむしろ下げることが分かりました。/新型コロナワクチンは突然死を増加させない」

 

これは大阪大学大学院医学系研究科感染症制御学教授で、コロナワクチン接種の政府広報やファイザーの新聞広告にも協力したことで知られる忽那賢志氏が、2026年3月31日に投稿した文面だ。この投稿には、この研究の内容を自身が分かりやすく解説したYouTube動画も貼り付けられている(くつ王アカデミア「新型コロナワクチン接種は若年健康者の突然死リスクを増加させない」2026年3月31日https://www.youtube.com/watch?v=cJP11dUqfyk&t=20s)。

 

この動画の中で忽那氏は、この研究を「非常に精度の高い調査結果」と紹介していたが、論文を精読して、私にはとてもそうは思えなかった。むしろ「症例対象研究」というエビデンスレベルの低い研究であり、解析結果自体がバイアスを回避できていないことを如実に物語る内容だった。実際、著者らも「(突然死の大半を占める)院外死亡の原因が確認できていない」、そして「健康求診行動の違いによる残留交絡が含まれることがある」として、論文中でバイアスを回避できてない可能性を認めている。

 

さらに、統計学とEBMを学んだ人なら分かるはずだが、症例対象研究は「因果関係」(原因→結果)を見ているのではなく、目的とする事象(病気や死亡など)の起こりやすさをオッズ比を使って近似的に見ているに過ぎないので、エビデンスレベルが低い。症例対照研究は事象との要因の関連を過去に遡って見出そうとする「後ろ向き研究」であるうえに、最初から母集団を代表しない集団を解析対象としているので、後で統計的な調整を行ったとしても完全にバイアスを回避できない。したがって、鵜呑みにしてはいけないものなのだ。

 

このカナダ研究の結論も因果関係を述べてはおらず、「これらの発見は、COVID-19ワクチンが健康な若年者の突然心臓死リスクを高めるという仮説を支持しない」としか書かれていない。にもかかわらず、忽那氏はXの投稿で「新型コロナワクチンは突然死のリスクをむしろ下げることが分かりました」と書いてしまっている。これは、科学的にアンフェアであり、医学研究者として不誠実だ。医学を科学だと言うのならば、医師はこのような鵜呑みにできない研究を利用して、一般の人々を誤導すべきではない。

 

このカナダ研究の内容がどのようなものなのか、あらためて私なりに読み解いてみた。この論文は「健康に思われる若年層におけるコロナワクチンと突然死との関係 集団ベースの症例対照研究」というタイトルで、カナダのトロント大学の研究グループによる研究の結果を報告したものだ〝Association between COVID-19 vaccination and sudden death in apparently healthy younger individuals: A population-based case-control study〟(PLoS Med. 2026 Mar 19;23(3):e1004924. doi: 10.1371/journal.pmed.1004924. eCollection 2026 Mar. https://doi.org/10.1371/journal.pmed.1004924

 

カナダ・オンタリオ州の健康保険データベース登録者約1466万人の中から、基礎疾患を持たない15~50歳の健康な人約630万人を抽出し、さらに2021年4月1日から2023年6月30日までの間に1.病院外で死亡、2.救急外来で死亡、3.入院24時間内に死亡という3つの条件(2と3は外傷、精神疾患、薬物による死亡を除外)にあてはまる4963人を特定した。このうち4806件(96.8%)が、属性(年齢、性別、居住地域、年収)の適合する5人の「対照群」(合計2万4030件)とマッチングされて、「一次症例対照分析」の対象とされた。

 

マッチングされる前の「突然死群」の属性を見ると、登録者全体に比べてコロナワクチンの接種率には差はなかったが、年齢が高い、北オンタリオに住む人が多い、低所得者が多い、世帯あたりの人口数が少なく、販売、職人、製造業、農業に従事する人の割合が高い、高血圧、不安障害の割合が高い、インフルエンザワクチンの接種率が低いという特徴があった。つまり、突然死をした人は、全体の中ですでに「健康面での偏りを孕んでいる集団」だということが見て取れる。

 

この「突然死群」4806人と「対照群」2万4030人のコロナワクチンの接種率を比べたところ、突然死群が67.4%(3237人)で、対照群が77.1%(1万8520人)だった。つまり、突然死群のほうが対照群より10%近く接種率が低いことがわかる。──このこと自体が、すでに「健康者接種バイアス」があることを示唆しているが──、そして、この数字を元に、「コロナワクチン接種による突然死の起こりにくさ」(オッズ比=OR)を計算した。すなわち

1.突然死した人たちの中で「接種者」が「非接種者」の何倍いたか

2.属性をマッチさせた生存者の中で、「接種者」が「非接種者」の何倍いたか

を算出して、1の結果を2の結果で割り、さらに統計的に調整をかけたところ「0・57」という数字になったというわけだ。これを「調整オッズ比」(aOR)と言う。Xで「コロナワクチン接種で死亡リスクが43%減った(<1‐0・57>×100)」と書かれているのを見たが、その数字の根拠はこれなのだ。

 

そして、この研究では、「コロナワクチン接種が突然死の起こりにくさと関連している」という傾向が、条件を変えて分析しても同じであるかどうかも検証している。すなわち、「40歳未満に限定した場合」「コロナワクチンの種類や回数や接種時期を変えた場合」「オピオイド(薬物依存)関連死を除いた場合」「病院または救急外来での死亡に限定した場合」のaORを算出したところ、いずれも死亡リスク低下と関連していたことから、結果には一貫性があったとしているわけだ。


これに加えて、「修正SCCS(修正自己対照ケースシリーズ)分析」を行った結果、突然死の発生率に有意な差は出なかった。分かりやすく言うと、突然死群だけのデータを使って、接種から死亡までの偏りを調べてみたところ、接種直後(6週間以内)に死亡が集中する偏りは見られなかったということだ。つまり、この結果は「コロナワクチンと突然死との関連性は薄い」ことを意味する。これも、この研究の結論を強化する要素になっているとは言えるだろう。

 

ただし、この修正SCCSの結果は「コロナワクチン接種で死亡リスクが下がる」とは言い難いという意味でもある。なぜなら修正SSCSは突然死群内だけでの比較なので、対照群が孕むバイアスの影響が消えるからだ。つまり、aOR=0・57という結果は、たんに健康者接種バイアスを反映している可能性が高いことを示唆する。「健康な人が接種する傾向が強いので、ワクチンが突然死を防いだように見えていただけ」というバイアスを裏付ける結果とも言えるのだ。

 

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