Foomii(フーミー)

X(ツイッター)では言えない本音

鳥集徹(ジャーナリスト)

鳥集徹

#139 「病院」よりも「家」がいい ~いきなりステージⅣのがんが発覚した叔母の闘病記①~

「Mおばちゃん、がんになったんやて。肝臓と肺と骨にもあるらしい。脚が浮腫んで、湯舟に入れず、困ってるって」

母親から叔母の話を聞いたのは、2026年3月15日のことだった。東京の多摩地域に住む叔母は85歳。事情があって、数十年、この地で独り暮らしてきた。けれど、これまで大病することなく、お友だちとサークル活動に参加したり、カラオケスナックへ通ったりして、気楽な日々を送っていたようだ。

その叔母を突然の病が襲った。二つ上の母親と叔母は、八人きょうだいの七番目と八番目。宮崎の田舎で育った二人は、年が近いこともあって、きょうだいで一番仲が良く、しょっちゅう電話で近況を伝えあっていた。

だから、叔母は母親に真っ先に打ち明けたのだ。それを聞いた母親が、医療に詳しい私に、どうすべきかを相談してきた。電話口で話を聞くかぎりでは、すでに全身に散らばっている。事態の深刻さを悟った私は、母親にこう告げた。

「残念やけど、病状を聞くかぎり、覚悟しておいたほうがいいかもしれないね…。こっちから押し付けがましく電話したりしないけど、おばちゃんが相談したいと言うならサポートするから、いつでも電話してと伝えてくれる?」

3日後の18日夜、叔母から携帯に着信があった。体に異変を感じたのは2月末ごろだったという。食欲がなく脚が浮腫んでいるので、近所のかかりつけのクリニックを受診した。血液検査を受けたところ、すぐに市民病院へ行くように言われ、数日後にCTと内視鏡検査を受けた。その日のうちに、がんを告げられたという。

「去年、健康診断を受けたときには、な~んにも異常がなくて健康優良児だったのに、なんで急にこんな病気になるのかねぇ。もう歳だから、若い時に乳がんかもと言われたときみたいなショックはないけど、とにかく背中が痛いのと、脚が腫れて困ってる。それさえなんとかしてくれたら、なんでも一人やっていけるんだけど」

そんなふうに嘆いた後、この日に医師から聞いた説明の内容を教えてくれた。

「おなかに影があったから膵臓かもしれないと言われてたけど、今日聞いたらそうではなかったみたい。画像を見たら、肝臓にも肺にも骨にも影があるって。先生から大学病院で詳しい検査をして、放射線治療を受けてきたらと言われたんだけど、電車を乗り継いでバスにも乗らないといけないのよ。どうせもう治らないんだったら、痛い検査も治療もしたくないしねぇ」

「放射線治療は、何のためにやると言ってた? 骨の痛みを取るためとか話してなかった? もしそうなら、やってみてもいいと思うけど」

「背中が痛いのは、骨の痛みなのかなぁ。放射線って、毎日病院へ通わないといけないんでしょ? こんな体じゃ、もうそんな遠くまで通えないし」

「そもそも、原発はどこって言ってた? 肝臓なの? 肺なの? それによっても、治療法が違ってくる可能性があるけど…」

「原発って何?」

「最初にがんができたところ。そこから散らばっていくのよ」

「ん~、そんな話はしてなかったような気がするねぇ。本当はダメらしいんだけど、先生の話をメモ代わりにレコーダーに録音させてもらったの。でも、覚えきれなくて」

「おばちゃんとしては、大学病院へは行きたくないの? ずっと市民病院で診てもらいたいの? おばちゃんが望むなら、家にお医者さんに来てもらう訪問診療もあるけど」

「そんなこともできるの? もう全身にがんが回ってたら、治らないんでしょ。とにかく、痛みと脚の腫れだけ取ってもらえたら」

確かに、病状からして根治は望めないだろう。高齢で体力も落ちているので、積極的治療を受けるより、緩和ケアを中心に受けたほうが、本人のためになる可能性もある。

電話しながら叔母が告知された市民病院のホームページを見ると、都合のいいことに「緩和ケア科」のあることがわかった。

「市民病院に緩和ケア科があるね。そこにかかるようには言われなかった?」

「そんな話はしてなかったよ」

「痛みや腫れを取りたいなら、市民病院の緩和ケア科で診てもらう手もあると思うよ。そっちにも回してもらったほうがいいんじゃないかなぁ。そもそも、いま何科にかかってるの?」

「内科」

「内科と言っても、いろんな専門があるのよ。呼吸器内科? 消化器内科? 主治医の先生の専門はなんだった?」

「消化器だったような気がするねぇ」

叔母の話は埒が明かないところもあった。85歳だ、無理もない。次は27日の14時に病院へ来るよう言われているという。今後の方針を決めるために、一通り外来が終わって時間の取れる午後にしてくれたのだろう。叔母の話を聞きながら、私も同席したほうがいいと思った。

「わかった。じゃぁ、27日に僕も病院へ行くから、先生の話を一緒に聞いていい?」

「遠いのに、わざわざ来てくれるの? 悪いよ…」

「そんなことないよ。こんな時だからこそ、遠慮せず頼ってくれたら。もちろん、来てほしくないなら、行かないけど」

「来てくれたら嬉しいけど…遠くない?」

「こんなときだからね、遠いのは気にする必要はないよ。じゃぁ、14時に病院で待ち合わせしましょう。僕が話を聞いて、おばちゃんが一番いいように段取りするから、安心してね」

そう約束して、その日は電話を切った。

 

… … …(記事全文6,413文字)
  • この記事には続きがあります。全てをお読みになるには、購読が必要です。

    購読中の読者はこちらからログインすると全文表示されます。

    ログインする
  • 価格:440円(税込)

    今月配信済みの記事をお読みになりたい方は定期購読を開始ください。
    お手続き完了と同時に配信済み記事をお届けします。

    定期購読する

今月発行済みのマガジン

ここ半年のバックナンバー

2026年のバックナンバー

2025年のバックナンバー

2024年のバックナンバー

2023年のバックナンバー

このマガジンを読んでいる人はこんな本をチェックしています

月途中からのご利用について

月途中からサービス利用を開始された場合も、その月に配信されたウェブマガジンのすべての記事を読むことができます。2026年4月19日に利用を開始した場合、2026年4月1日~19日に配信されたウェブマガジンが届きます。

利用開始月(今月/来月)について

利用開始月を選択することができます。「今月」を選択した場合、月の途中でもすぐに利用を開始することができます。「来月」を選択した場合、2026年5月1日から利用を開始することができます。

お支払方法

クレジットカード、銀行振込、コンビニ決済、d払い、auかんたん決済、ソフトバンクまとめて支払いをご利用いただけます。

クレジットカードでの購読の場合、次のカードブランドが利用できます。

VISA Master JCB AMEX

キャリア決済での購読の場合、次のサービスが利用できます。

docomo au softbank

銀行振込での購読の場合、振込先(弊社口座)は以下の銀行になります。

ゆうちょ銀行 楽天銀行

解約について

クレジットカード決済によるご利用の場合、解約申請をされるまで、継続してサービスをご利用いただくことができます。ご利用は月単位となり、解約申請をした月の末日にて解約となります。解約申請は、マイページからお申し込みください。

銀行振込、コンビニ決済等の前払いによるご利用の場合、お申し込みいただいた利用期間の最終日をもって解約となります。利用期間を延長することにより、継続してサービスを利用することができます。

購読する