… … …(記事全文9,466文字)読者は映画『アポロ13』(1995年)をご覧になったことがあるだろうか。人類が3度目の月面着陸を目指すアポロ13号のミッションにおいて、司令船(機械船)で爆発事故が起こるという実話をもとにした映画である。監督はロン・ハワード、名優トム・ハンクスが主演であった。
月への着陸を目指していたアポロ司令船の後部にある機会船で突如、船内の酸素タンクが爆発し、母船の機能の多くが失われる緊急事態になった。この事故により、電力と酸素、水などの生命維持システムが危機に瀕し、月面着陸が不可能となった。3名の乗組員は暗い宇宙空間で生死の狭間をさまようことになるが、ヒューストン管制センターとNASAのスタッフによる必死の努力と思いがけないアイデアが宇宙飛行士たちの命を救うことになった。乗組員も生き残りに懸命だった。酸素も船内を照らす照明も乏しく、船内温度も氷点下に近い極限の状況の中で乗組員たちは懸命に船をコントロールして無事に地球へ帰還した。
地上にいるNASAと管制センターのスタッフは、司令船の酸素や電力、そして時間という限られた資源の中で危機対応の策を講じた。司令船の電力消費を最小限に抑え、月着陸船を救命ボートとして使用した。また、船内の二酸化炭素の濃度が高まって乗組員が呼吸困難に陥ったとき、地上スタッフは即席の除去フィルターを考案し、その作り方を無線で伝達。乗組員の生存環境を維持した。司令船はコンピューターが使えないため、自動操縦による地球までの帰還は不可能であった。だが、乗組員らは正確なマニュアル操作によって地球への帰還軌道を確保し、1970年4月17日、沖縄東方の太平洋上に無事に着水できたのだ。これが映画のおもなストーリーである。
人類を初めて月に送り込んだアポロ11号は偉業を成し遂げた。一方、アポロ13号のミッションは大失敗し、一歩間違えれば3名の宇宙飛行士が宇宙の藻くずとなる寸前だった。だが、同じ失敗でもアポロ13号のミッションは「栄光ある失敗」(あるいは「偉大なる失敗」)と呼ばれるようになった。当初の目標である月面着陸を達成できなかったにもかかわらず、命の危険にさらされた乗組員を救い、無事に地球に帰還させたNASAの対応が卓越し、危機的な船内で乗組員が諦めずに地球への帰還を果たしたからである。米国の宇宙開発は、この失敗から得た苦い教訓で新たな段階へと進むこととなった。

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