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吉田繁治 (経営コンサルタント )

吉田繁治

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<418号:やおら出てきた政府紙幣と無利子国債を検討すれば>

       2009年2月11日号:金融と経済
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著者へのメール    yoshida@cool-knowledge.com
著者:Systems Research Ltd. Consultant吉田繁治
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こんにちは、吉田繁治です。「金融経済」における巨額損が、世界の
「実体経済」の生産・流通に波及し、雇用にまで至るようになりまし
た。

原因は、米国世帯の、ローンで買っていた消費($1兆:90兆円/年)が
消えたからです。米国世帯の負債が$15兆(1350兆円)になって、反転し
た。

日本の輸出は、GDPの15%(約80兆円)です。これがわずか3か月で30
%(24兆円)くらい減った。乗数効果を入れれば、今後、これがGDPの
うち50兆円(10%)を減らすことになります。

米欧日が、同時に「経済の準恐慌(失業率10%:GDPの10%収縮)」に
至る過程が、現在です。唯一の対策は、政府部門による、需要創造で
す。

ケインズ策と言っていい。

(1)政府が国債を刷り、それを民間や中央銀行に買わせる。
(2)政府は、新規国債発行額に見合う現金を得る。
(3)その現金で、公共事業をし、需要を作って失業を防ぎ(需要創造)
(4)金融にも資本を入れ、信用収縮を防ぐ。

【重要】しかし・・・今回の金融危機・経済危機で問題になるのは、
「民間が、増発される巨額国債をどの程度買えるのか?」、「中央銀
行が、国債をどの程度買えるのか」ということです。

【認識】先進諸国(10億人)の世帯の貯蓄額は、戦後ベビーブーマー
(約1億人)が一斉に退職期に入ったため、増えていません。逆に、年
金基金が取り崩される時期になっています。60歳以上になれば医療も
3倍に増え、政府財政が枯渇する。(注)日本では現役世代の医療費は
1人15万円/年、65歳以上は65万円/年です。

つまり民間には、経済対策のため、これから発行される巨額国債を買
う資金源がない。

●国債発行によって政府が需要創造をするケインズ策は、
(1)民間(世帯と企業)に消費や投資に使われない貯蓄増があり、
(2)その貯蓄が金融機関に増えていて、
(3)企業が投資のために借りないときのみ、有効です。

2009年以後は、
・先進諸国が等しく行うケインズ策とは言っても、
・「4億世帯の余剰貯蓄の増加」という背景のない、
・国債発行にしかならない。

【認識】米国の、金融・経済対策のための必要資金は、ゴールドマン
サックスの直近の試算では、$4兆(360兆円)とされています。

オバマ大統領が、形容詞が多い修飾語のスピーチで決めたのは、まだ、
$8000億(72兆円)の対策に過ぎません。

ところが、金融と経済対策のための必要資金は、ゴールドマンが言う
$4兆(360兆円)でも足りない。

【損失の拡大は現在進行形】今、米国は1ヶ月に$1兆(90兆円)くら
いの規模で、金融機関、企業、世帯の合計損失が拡大中だからです。

一例を言えば、住宅価格は40%下落に向かい、現在進行形で下落中で
す。

米国住宅ローン関連証券($12兆)の流通市場は、消えたままです。
住宅が下がり切って、再び売れるようになるまで、続きます。

米政府の国債発行は、2009年中に、いくらになるのか。
$2兆~$3兆を超えるかも知れません。誰が買うか? 

【海外が買っていた】07年度の、米国の新規国債は、94%を海外(日
本・中国・中東)が買っていましたが・・・貿易黒字が減れば、理の
当然として買えません。

国債は、売れなければ売れる額に価格が下がり、金利が上がります。
そのため、奇策であるアメロや新ドル発行の「噂」もある。

本稿は、以上のような問題を、包括的に解きます。
一体、どうなるのか?

企業経営にとって、昨年秋からの突然の不況がどうなるのか、いつま
で続くのか、深化するのか、政府の対策で回復するのか、重大な関心
であるはずです。

すこし妙な例ですが、1500店があるという大阪の飲食街、北新地では、
11月以後、ほぼ全店で30%以上、売上が減ったと言う。飲食店には、
好況と不況の経済変動が、強く表れます。今、実に、閉店が多い。

他方、言葉と数字で指導しているディスカウント型の中堅小売では、
14店の既存店(平均で700坪の大型店)が、昨年3月以来、継続して30
%も売上げを増やしています。

百貨店が10%売上を減らした08年12月と09年1月も、前年同月比で30%
増が続いています。

1年前に開店した新店では、前年比60%増。出店には、積極的です。今
年は、4店でしょうか。こんなに売れていいのか、周囲の店の売上減が
逆に心配・・・と思うくらい。社員の目が輝いています。

この店舗の改革の方法は、原則を一般化しながら、別稿で、まとめて
お届けします。単に、ウォルマートの初期の方法(1960年代~70年代)
を、応用して行っているだけなのですが。

──────────────────────────────

 <418号:やおら出てきた政府紙幣と無利子国債論を検討すれば>
          2009年2月11日分

【目次】

1.日本政府の国債発行に、ドン詰まりが生じた
2.政府紙幣の検討
3.国債発行による、需要創造の流れ
4.各国政府の経済対策で、金融危機・経済危機は救えるか?
5.2000年代のトルコのインフレと金利
6.どんな形の、インフレの可能性があるのか

──────────────────────────────

■1.日本政府の国債発行に、ドン詰まりが生じた

日本では、政府紙幣やゼロ金利国債も、言われるようになった。
理由は、09年度に予定されている、33兆円の新規国債発行の買い手が、
少なくなっているからです。

なぜ、買い手が少ないのか。

(1)金融機関に余剰資金がなくなったこと。
(2)金融市場が将来の物価と金利上昇を予想し、
(3)国債価格の下落リスクを見ているからです。

▼日銀と国債

財政法では、日銀が財務省から直接に国債を買うことは禁じています。
一旦は民間金融機関(銀行、生保)、及び政府系金融機関(郵貯・簡保、
年金基金等)が買ったものを、日銀は市場で買う。

現時点で、日銀の国債保有残高は77兆円(資産のうち国債+買い現先)
です。

(注)現先で使われるものも国債です。買い現先は、一定期間後に、
国債を契約価格で、日銀が売ることを約束した買いです。売り現先は
その逆です。

日銀の資産としての国債77兆円は、1万円札の紙幣発行高(負債)77兆
円(77億枚:国民1人あたり61枚)と見合っています。つまり、日銀は
保有国債77兆円に見合う紙幣を、発行しています。(09年1月31日)
http://www.boj.or.jp/type/stat/boj_stat/ac07/ac090131.htm

日銀のB/S(バランスシート)の結果を見れば、日銀が国債を直接に財
務省から買ったのと、何ら変わらない。

じゃ、財政法が日銀の直接引き受けを禁じる理由は、何か?

●「一旦は、市場で金融機関が買うというクッションを置く」ことで、
政府の、戦時のような無際限な国債発行を押さえるためです。

・金融機関に、国債を買う余剰資金(短期資金)があり、
・国債の額面金利(表面金利)が妥当だという判断がなければ、
 金融機関も買わないからです。

これが、金融の秩序です。

▼GDPのマイナス予想

今、(財務省の内々では)、日本のGDPは2009年度、2010年度と少なく
とも2年間、[-2%~3%/年]という予想です。米国も、欧州もGDP
のマイナスは同じです。

日本のGDPのマイナスは、麻生内閣の所信表明演説「2011年度に経済回
復を目指す」ということから、明らかになることです。

(注)GDPについての政府予想(内閣府のマクロ経済計算)は、常に、
期待や希望を、2%分(10兆円)くらい含むことを知っておいてくださ
い。

GDPのマイナスが意味するのは、金融機関に、2009年度に発行を予定す
る33兆円の超低金利の新規国債(現在の短期金利0.61%:長期金利1.
35%)を引き受ける余剰資金は、ないということです。(注)実際は、
法人税収と所得税の急減のため、40兆を超えるでしょう。

▼国債金利の上昇

金融機関が買うには、長期国債の発行金利を、2%~3%に上げねばな
らない。国債の下落リスクがあるからです。

しかしこれは市場金利の上昇と、既発の国債・地方債(約800兆円)の
市場価格が、今の価格から5%~10%下落すること(損失が40~80兆円)
を意味します。(注)計算は後述。

同時に金利上昇で、金融の縮小と経済不況の深刻化が起こってしまう。
企業には利払いの赤字が増えます。

国債残が少ない時期なら、1%や2%の金利上昇は、なんということも
ない。

しかし、国債・地方債が800兆円の残(他に短期借り入れ200兆円:合
計1000兆円)です。

それを民間と日銀を含む政府系の金融機関が保有しています。1%の金
利上昇で生じる5%の債券価格の下落は、40兆円もの損を生むので、穏
やかではない。

2009年度に33兆円の新規国債を発行すれば、引き受け手が少ないので、
国債価格が下がり、金利が上がる。

800兆円の既発国債と地方債が、40兆円(5%)~80兆円(10%)も下
落すれば、経済対策の全体としての、国債発行の効果はない。

国債を持つ金融機関の損を、また、政府が埋めなければならなくなる
からです。これが、国債発行のドン詰まりです。

国債発行が有効でなく、逆に、金利を上げ、既発の国債価格を下げて
しまう。

国債下落による損(金融機関の実質的な自己資本の減少)が生じれば、
金融機関は、再び、資産を縮小しなければならなくなります。

無理な国債発行で金利が上がった結果は、金融の縮小になる。つまり、
金融機関の債券売り、株売り、国債売り、貸し剥(は)がしです。

政府の経済対策(33兆円の国債発行と経済対策)の、効果が消えるど
ころか、逆の、国債の下落による信用危機からの経済縮小になる。

わが国にとって、市場の金利が上がり、800兆円の国債・地方債が下落
することよる金融機関の信用危機は、米国の住宅価格下落(住宅ロー
ン$12兆)による信用危機より大きくなります。

GDP(その国の経済力)に対する金額で言えば、
・日本にとっては国債・地方債が、
・米国にとっては住宅証券が、問題なのです。

以上で描いたような、「低金利の国債が金融機関に売れない」という
背景で、「政府紙幣」及び相続税を引き当てる「無利子国債」論が出
た。

(重要な注)実際、08年秋には、国債で「札割れ」、つまり、発行さ
れた国債が十分に引き受けられない事態が起こり、財務省は、金利が
上がるので、その国債を、ひっこめています。

新聞は、昨年とても小さく、この重要なことを報じた。財務省は札割
れ以降、政府紙幣や無利子国債を言うようなったのです。

財政法を改訂し、日銀が、財務省から直接に国債を買う方法もありま
す。

しかしこれは、市場が国債を買う余力がない(資金がない)ことを、
大声で、国内と世界の金融市場に、伝えることを意味します。

結果は、上記と同じ、既発国債の下落と、金利の上昇です。

■2.政府紙幣の検討

政府紙幣とは、財務省が直接に「財務省券」を発行することです。日
銀券1万円に対し、財務省券も1万円とする。紙幣に、日銀券の代わり
に、財務省券と書く。

(注)コインは、日銀ではなく財務省が発行しています。100円玉や5
00円玉に「日本国」と書いてあるでしょう? コインは、補助通貨で
す。そして財務省は、[コインの額面(500円)-鋳造コスト]を利益
に計上しています。500円玉20枚を、日銀の1万円札と換えるからです。
この1万円が、政府収入になる。政府紙幣の発行も、このコインのメカ
ニズムと同じです。

・低金利の国債が市場で売れにくい。
・無理に多額を発行すれば、国債価格が下がり(市場の金利が上がっ
 て)、経済はますます縮小する。
・国債を通貨とするわけには行かない。

そのため、政府紙幣を発行するという苦肉の策です。

実際、通貨は、国民や海外に価値が信用されるのものなら、なんでも
いい。麻生さんがサインした小切手を日銀に渡してもいい。問題は、
その流通価値が、国民に信用されるかどうかです。

信用されなければ、額面に対する欠け目が出ます。
政府紙幣1万円と言っても、9000円の価値しかないと市場が見れば、9
000円としてしか流通しない。

つまり金利が10%以上になる。金利とは、通貨価値の下落を補うもの
です。ここ、が問題なのです。

【重要】実は、物価が上がることを、インフレというのではない。通
貨の価値下落こそを、インフレと言います。通貨価値が下がるから、
その通貨で計る物価が、上がったように見えるだけです。

中国ではインフレを通貨膨張と言いますが、これが、経済学的に正し
い。

インフレの時は、通貨価値の下落(購買力の低下)が想定されるので、
それを補うために、金利も上がるのです。

マネーをもつ人は、物価の期待上昇率以上の金利でないと、貸さない。
これは、理の当然でしょう。

貸す側から言えば、[金利=物価の期待上昇率+回収のリスク率]で
等価です。この金利条件を満たさねば、金融取引が行われない。

▼インフレ(通貨価値の下落)と金利の原理

常識は、1万円札は来年も1万円札とするため、商品が1万1000円になる
と、物価が10%上がったと言う。しかし、これは真実ではない。ケイ
ンズはこれを「貨幣錯覚」と言った。

同じ1万円の商品は、来年も1万円の価値だからです。
値札が変わるので、上がったように見える。

実際は、1万円札の商品との交換価値が、9000円に下落している。1万
円の価値の商品を買うには1000円不足する。そのため1万1000円を払う
ことになる。これが、10%のインフレ(消費者物価上昇)です。

他方、1万円を貸す側は、その価値が、来年に9000円に下がってはたま
らない。そのため。1万円を貸すとき。[10%以上の金利率+リスク率]
を要求する。ここから、物価と金利の関係の原理が導かれます。

【原理】金融市場の金利は、予想物価上昇率に回収のリスク率を加え
たものに正比例して上がる。

金利の原理を言えば、経済に対し中立的な金利は、
[長期金利=GDPの期待成長率+物価の期待上昇率]です。

(注)中立的な金利とは、経済を刺激も縮小もさせない金利水準です。
この金利が[GDPの期待成長率+物価の期待上昇率]より低いときは、
借りる人が増え、消費と投資が増えて経済は刺激されます。

逆に、後で述べるトルコの2000年代初期のように、金利が[GDPの期待
成長率+物価の期待上昇率]より相当高いと、貸し手は多くなるので
すが、借り手が減って、消費と投資が抑制されるため物価野資産の上
昇率は下がって行きます。

【重要な変化】ところが今、世界の長期金利(10年もの国債の利回り)
は、FRB、ECB、日銀による低金利策にもかかわらず、上がりつつあ
ります。

これはGDPの上昇期待からではない。先進国の2009年のGDPは、マイナ
ス予想です。

【認識】金融市場は、今、「将来の物価上昇」、言い換えれば「通貨
価値の下落」を想定しています。そのときの通貨価値の下落を補うの
が、金利です。以下の変化は、見かけ上ではわずかですが、金利水準
が低い金融市場にとって、大変化です。

長期金利  40日間での上昇幅(08年12月比)
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
米国    2.98%   0.76ポイント(26%)
英国    3.74%   0.72ポイント(20%)
スペイン  4.49%   0.67ポイント(15%)
ドイツ   3.38%   0.43ポイント(13%)
フランス  3.79%   0.38ポイント(10%)
イタリア  4.57%   0.19ポイント(4%)
日本    1.34%   0.17ポイント(13%)
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
(日経新聞09.02.10)

以上のように、先進国の金融市場は、40日で10%~26%も上げ、通貨
価値の下落(=物価上昇)を想定しています。ここ40日での上昇率を、
年間に延長すれば、その9倍、つまり90%~234%もの上昇になる。

これは、同時に、国家が発行した既発国債が、下落していることを示
すのです。つまり、金融機関から保有国債が売られている。

■3.国債発行による、需要創造の流れ

政府が30兆円の国債を発行する。
金融機関がその国債を、預金や基金で買う。
政府に、30兆円の現金が入る。

その現金を使い、政府は橋、建物を企画する。
30兆円が建設業へ代金として支払われ、賃金と資材購入費(資材業者
の売上)になる。
資材業者は、その売上で、賃金を払う。

こうして、原材料の海外輸入以外(約3兆円)の、27兆円が国内の賃金
になる。

その賃金で世帯は食品・衣料・住宅関連費を払い、車・液晶TV・家具
の耐久財を買い、携帯電話の通信費を払って交通費も払い、教育費、
医療費を払う。

経済には、乗数効果もあって、27兆円分以上の需要が創造される。以
上が、政府の需要創造の基本です。

ケインズ策とも言う。このケインズ策があるから、1929年~1933年の
ような「有効需要」の不足による経済恐慌は、避けられるとしてきた。

ケインズ以前は、経済は不況と好況を繰り返していたのです。

▼有効需要とは?

ケインズ(1883-1946)が言った「有効需要」とは何か? 

全体経済(GDP)では、古典派の祖セイ(1767-1832)が言ったように、
[生産=消費]にはならない。

[生産=消費+貯蓄]になる。つまり世帯の貯蓄分が、消費として不
足する。有効需要が不足する時期がある。その貯蓄を企業が借りて、
投資すればいい。しかし、投資は7年~11年サイクルで多い時期と少な
い時期を繰り返す。

生産力(工場設備と従業者)はあるのに、
・消費が不足し、
・世帯が将来に備え貯蓄することが続けば、
・生産力が過剰になって、不況から恐慌になる。

古来、資本主義は、このサイクルを繰り返した。

原因は、有効需要(消費+投資)の不足、言い換えれば貯蓄の過剰の
時期である。

この貯蓄が、金融機関を経て、企業の借り入れになって、投資が行わ
れれば、経済全体はバランスする。投資も需要です。

しかし不況期には、企業は、将来を悲観する。
投資が不足する。
そのため、金融機関にたまる貯蓄が過剰になる。

その過剰貯蓄を、企業に代わって、政府部門が国債を発行して借り、
公共事業を行い(投資需要を創造し)、有効需要を増やせばいい。

この説が「ケインズ革命(1933年〕」と言われるものです。

(注1)しケインズは、今回のような金融危機による信用収縮に対し、
「有効需要論が有効」とは、どこを探しても言っていません。過剰な
貯蓄があるときのみ、有効と言う。

(注2)本稿では、過剰な貯蓄がなく、バブル経済が崩壊した後の信
用縮小からが起こった経済に対しても、ケインズ風の有効需要論が妥
当なのかを、金利と物価の関係から解くものです。

▼国に貯蓄の増加がないときの巨額国債の発行は?

ケインズの有効需要論は、
(1)その国の経済に過剰な貯蓄があって、
(2)それが投資に使われないとき、有効です。

今回のように、貯蓄増がないときはどうなるか?

日本には、1500兆円の世帯の金融資産があるとされます。これを使え
ばいいという無責任な論もある。

例えば、銀行預金分が750兆円(50%)はある。これを国債に使えばい
いとする。これは銀行の資産・負債の状況(つまりバランスシート)
を知らない暴論です。

銀行の預金(世帯からの負債)は全部、
・貸し付け、
・社債購入、
・株購入、
・国債購入で使われ切っています。

どの銀行のバランスシートを見ても、以上のことは明らかです。

世帯の預金増分があって、それが無金利の現金で銀行に残っていると
きに、銀行に資金余剰があると言えます。

しかし預金増がないとき、銀行に国債を買わせれば、どうなるか。

銀行は、
(1)貸し付けを減らす、
(2)保有社債を売る、
(3)保有株を売る、
(4)保有国債を売る、
(5)日銀から借りるといった形でしか、
  新しい巨額国債を買う現金を、生めません。

こういった事情は生保、及び政府系の郵貯・簡保、年金基金も、全く
同じです。

現金保有は、金利を生まない。だから、金融機関は現金を貸し付け、
あるいは社債購入、株の購入、国債の購入をしています。
金融機関の金庫には、今日の支払いに備える、わずかな準備金しか
ない。

【まとめれば】
日本の90年代までのように、世帯の貯蓄増(または企業貯蓄の純増)
があるときしか。金融機関には新しく発行される33兆円の国債(09年
度)を、十分に買う余力がない。

(注)そのため、今、世界で市場の長期金利が上がっているのです。

市場の資金不足を示すのが、上記の、中央銀行の利下げ(債券の買い
オペ)に逆行した、市場の長期金利の上昇です。

これは、
・金融機関が持つ国債が売られ、
・米国では4%くらい価格下落していることを示します。

米国では、2009年初の40日間で0.76ポイント(26%)も上げています。
これが続けば、年間換算では9倍、つまり6.84ポイントの金利高騰に等
しい。

6.84ポイントも長期金利が上がれば、2%の利回りの平均残存期間5年
の国債は、以下のように、24%も価格が下がります。

(注)10年もの国債がどれくらい下げるか計算してください。結果は、
37%もの下落になるでしょう。

【国債価格】
国債価格=(1+額面に対する表面利率×残存期間)×100
       ÷(1+金融市場の期待長期金利×残存期間)

$100額面の国債=(1+2%×5年)×100÷(1+8.84%×5年)=110
÷1.442≒$76・・・24%の価格下落

●現在の傾向で、米国の長期金利の上昇が続けば、国債発行の効果が
無効になるどころか、米国債が新たな不良証券になる。それをもつ金
融機関は、住宅証券の下落に匹敵する自己資本の毀損、つまり破産に
なります。

国家は、紙幣を発行できるから万能というのは情緒論であり、論理的
な経済論では、誤りです。

証券(=利付き借用証)が増え、金額が膨らみきった現代金融では、
政府・中央銀行も万能ではない。一人のプレーヤーに過ぎない。

今、経済論では、どんな形にせよ金融・経済対策として、政府・中央
銀行がペーパーマネーを刷るから大丈夫、09年秋には経済は回復する
という意見が、増えています。果たして、そうか? 

ここを検討し、論じねばならないでしょう。

「これ以上は判断停止、ともかく(anyway)、国家がペーパーマネー
を刷って貸すから、大丈夫」ではダメです。今、経済論を読めば、そ
の結論は「政府による対策の効果を期待する」というのが多い。

経済分析が期待では、無責任な論にしか、ならない。科学の実験で、
いい結果を期待すると述べるようなものです。政府も、GDP予想を希望
というようになっています。

■4.各国政府の経済対策で、金融危機・経済危機は救えるか?

▼無利子国債論

元大蔵官僚の異端、高橋洋一氏が提唱している政府紙幣とともに、出
てきたのが、財務省の無利子国債の発行論です。

(注)彼は、特別会計の埋蔵金も暴きました。しかし今回の政府紙幣
発行論は、後述するように、高橋氏の誤りでしょう。

無利子国債論は、2000年末に森内閣でも出たことがあります。
財務省が、国債の発行に困ると、繰り返し出てきます。

資産があり、相続税を払わねばならない世帯が、無利子国債を買えば、
その分相続税を減免する(割合は未定)

あるシンクタンクが1467兆円の個人金融資産のうち、その約1割の179
兆円が、タンス預金(約30兆円)を含み、使われていない余剰貯蓄と
推計したことから、無利子国債論が出てきました。

現在、わが国の国税は55兆円、地方税は40兆円、合計で95兆円(08年
度政府予算:実際には、これから10兆円くらいの減収でしょう)です。
http://www.soumu.go.jp/czaisei/czaisei_seido/pdf/ichiran02_04_a.pdf

04年と古いのですが、相続税の課税対象資産の総額は、10兆円でした。
現在は、株価の下落と地価の下落で、10兆円/年より少なくなってい
るはずです。

100人のうち4人くらいが、相続税を払わねばならない額の不動産や株
を子孫に残す。家業的な中小企業の、未公開株も多い。

しかし相続税の総額は、1兆4000億円(相続課税資産の14%)に過ぎま
せん。

無利子国債では、ある程度の国債売却効果は、あるでしょう。

概略の推計では、20兆円分くらいの無利子国債(向こう5年分の相続税
課税分)が発行できるかも知れません。しかし、後で相続税が急減し
ます。無利子分が、相続税の先払いになるからです。

▼(重要)無利子国債には、大きな下落リスクがある

無利子の長期国債(10年ものと仮定)は、金利の上昇があると、市場
価格が激しく下落します。

例えば、長期金利が5%に上がったとします。
買って3年を過ぎ、残存期間が7年のものは、どうなるか。

100万円額面の国債の市場価格=(1+0%×7年)×100÷(1+0.5×7
年)=100÷1.35=74万円・・・26万円(24%)下落。

平均課税率10%の相続税を減らすために無利子国債を買っても、3年後
の長期金利が5%に上昇すれば、相続税を払う以上の、損失(24%)が
生じる可能性がある。

ここまで考えると、奇策の無利子国債も「さほどは売れない」と見る
ことができます。政府財政の、砂上楼閣です。

同様に政府紙幣も、
・通貨の価値を下落させ、
・金利を上げる要素になる。

[確認]物価の上昇(言い換えれば通貨の価値下落)が金利上昇にな
る原理は、了解されたでしょう。

政府が経済対策を打てれば、金融・経済に、確かに効果はある

しかし、その財源を作るための、政府紙幣発行や国債発行は、
(1)通貨価値の下落と、
(2)金利の上昇(既発国債価格の下落)を生んでしまいます。

世帯の貯蓄増がないときの、無理で無効なケインズ策になる。

【背景】
政府紙幣や無利子国債論が出る背景は、2009年度の予定で33兆円、20
10年度はおそらく50兆円くらいの、新規国債発行が必要だからです。

09年度の33兆円は政府計画です。実際には、上場企業の利益の75%の
減少で、法人税の急減があるので40兆円か。

今、東証一部上場企業の3月期の利益を予想した予想PERは、39倍に上
がっています。PER=時価総額÷企業純益です。

時価総額は256兆円ですから、金融機関を含む一部上場企業の3月期予
想の合計純益は、256÷39倍=6.5兆円に、75%も減った。(09.02.09)

そして今後、最短でも2年間、GDPがマイナスに転じます。

「にっちもさっちも行かないどん詰まり」の状況に、政府財政と国債
発行があると認識していいでしょう。少なくも3年は、法人税収が減る。
賃金の切り下げやリストラで得所得税収も減ります。それを理由に、
政府紙幣が出てきた。

米国は、多分、日本政府と日銀に対し、米国債の増加購入を要請しま
す。結局、日銀による国債の直接引き受けしかなくなるでしょう。

【米国と欧州も同じ】
米国FRBも欧州ECBも同じです。
・米国FRBが国債を買い、
・欧州ECBが国債を買って、
 通貨を増刷することにしか、帰結しない。

欧州の状況は、わが国ではあまり報じられませんが、金融、経済、住
宅価格は、ほぼ6か月遅れで米国を追っています。

米国の国債発行は、2009年で$2兆以下と言われますが、その額で足り
るわけもない。すでに、$4兆の損が生じ、1ヶ月で$1兆の勢いで増え
ているからです。4.9億人の欧州連合(27カ国)も、米国と同じです。

前記の、米国と欧州の長期金利の上昇は、
・今後の国債増発、
・中央銀行の国債引き受け、
・つまり、通貨価値の下落(=物価上昇)を予想したものです。

各国の中央銀行が、
・国債を買い、政策金利を下げに誘導しているのに、
・金融市場は、それに反応せず、
・国債を売って、金利を上げているのです。

理由は、巨額損で、金融機関に国債を買うマネーがないからです。

【低金利の国債が売れないことが、金利の上昇】

インフレの本質は、
・商品価値の上昇ではなく、
・通貨価値の下落であると述べました。

マネーの側では、その価値を下げられてはたまらないので、国債や社
債の債券を売って、金利を高騰させる。

近年の先進国では例がありませんが、中進国のトルコでは、つい最近
、起こったことです。

▼トルコの事例

トルコは、米国のように継続的な貿易赤字国であり、対外債務がGDPの
50%と多い国です。米国に似ています。海外から、2桁の高金利に誘わ
れた資金が入って、なんとなっている。

過去は、その資金流入があったので、首都イスタンブール(人口1200
万人)の、風光明媚なボスフォラス海峡を挟む、高級住宅の価格は、
英国並みに高く1億円を超えています。

海峡沿いには、ヨーロッパで5本の指にはいる高級ホテルも建つ。欧州
のリゾート地でもある。(注)今は、資本流失で下落途上です。

先進国、中進国で経済原理の何が変わるか。
何ら変わりません。
経済統計の正確さの違いと政府や金融の腐敗度の違いがあるだけです。

人口構成は違う。トルコは若年者の人口が多く、中東諸国と同じく、
社会は高齢化していない。そのため、高いインフレ率ではあってもGD
Pの実質成長率は、中国並みに高い。

トルコは、生産性の低い農業人口(約40%)が、工業人口に吸収され
る過程だからです。農業人口が工業に吸収されるときが、その国の、
2桁に近い高度成長になる。日本では1960年代でした。

トルコでは農業人口が40%です。農業生産のGDPに占める割合は15%に
過ぎない。しかし農業の人的生産性は、他の産業平均の15÷40=37.5
%です。これが工業に吸収されれば、賃金は少なくとも3倍になって、
GDPは高い成長をします。

今の先進国のように生産が空洞化し、工業人口がサービス・流通に流
れる時期は、3%以下の低成長になります。

機械を使う工場の平均賃金の上昇率と、人的なサービス・流通の平均
賃金の水準と上昇率では、サービス・流通が低いからです。

(注)私の目標ミッションは、流通業(卸・小売:1200万人)の人的
な生産性を2倍に上げることとしています。在庫管理に使う情報の集計
・計算の機械が、コンピュータです。流通業の主作業は、在庫管理で
す。発注~入荷処理~陳列処理~販売処理~棚替え処理です。これら
は全部、在庫管理でしょう?

■5.2000年代のトルコのインフレと金利

【トルコ経済:200年代初期のインフレ期の、主要指標】

        00年  01年  02年  03年  04年
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
・GDP成長率  7.4% -7.5%  7.8%  5.8%  8.9% 
・消費者
  物価上昇率  39%  69%   30%  18%   9%
・GDP成長率+
  物価上昇率 46.4% 61.5%  37.8% 23.8% 17.9%
         ↓    ↓    ↓   ↓   ↓
・長期金利   34%  100%   64%  44%   25%
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
政府財政赤字
  GDP比  -10.6% -16.5% -14.7% -11.3% -7.1%
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
GDP比対外債務 64%  93%  77%   57%   51%
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
       (ジェトロ:イスタンブール在住:中島敏博氏)

【高いインフレ率】
この表の前の、90年代の消費者物価上昇率(インフレ率)だった70%
~100%に比べれば、落ち着いたものの、2000年代も、上表のような激
しいインフレ率でした。

1999年に100リラだった商品が、2004年にはいくらになったか?

100リラ×1.39×1.69×1.30×1.18×1.09=333リラです。
5年で3.3倍に上がった。
実際は、リラの価値が三分の1に下落した。

【原因】
原因は、
(1)政府の財政赤字(GDP比で7%~17%と巨額:比較すれば日本はG
  DP比で6%~8%)を国債で補い、
(2)それを買った中央銀行がリラを刷り、国民の貯蓄という背景のな
  いペーパーマネーを供給したからです。

貿易も赤字で、その分の決済資金は、海外から借りています。

企業と世帯は、政府経由・金融機関経由でペーパーマネーを手にし、
物価の上昇を予想して、買い物や投資をした。
都市部の一等地の住宅は、西欧並みに高くなった。

【金利率】
経済に対し中立的な金利率の原理では、
[長期金利→GDPの成長率+物価上昇率]でした。
これは、トルコではどうなっていたか?

各年度の[GDPの成長率+物価上昇率]は、00年46.4%、01年61.5%、
02年37.8%、03年23.8%、04年1.179%でした。

つまり5年間で、
1.464×1.615×1.378×1.238×1.179≒4.76です。

これに対応する長期金利は、00年34%、01年100%、02年64%、03年4
4%、04年25%です。

1999年の100リラを、この長期金利で複利運用すれば、
100リラ×1.34×2.00×1.64×1.44×1.25≒790リラになった。

これは、2000年代初期(5年間)の長期金利が、[GDPの成長率+物価
上昇率]より、相当、高かったことを示します。

【政府は、金融引き締めをした】
政府は国債を刷り、中央銀行はマネーを刷りつつも、
(1)政策金利を大きく上げ、
(2)信用(貸し借りと証券発行)を縮小させて、
(3)消費者物価の沈静化を図ったのです。

中央銀行は、政府にはマネーを供給し、民間のマネーは絞った。

これによって、90年代は70%/年以上だった物価上昇率は、2004年に
は9%に下がった。

しかし04年の長期金利は、まだ24.9%と高い。2桁の物価の上昇率を、
下げるためです。(注)2008年の物価上昇は、10%付近です。

2005年には、通貨を100分の1に切り下げる「デノミ」を行っています。
デノミは、呼称の切り下げです。

有料トイレの料金が、かつては、50万リラ(25円)だった。
今は0.5リラ(25円)です。

【インフレの本質は通貨の価値下落】
消費者物価のインフレが、その国の通貨価値の下落というのは、これ
でよくわかるでしょう。

インフレを起こしていない日本円から見れば、今も昔も、トイレ代は
25円で変わらない。つまりトルコの物価は、円で見れば変わっていま
せん。トルコの通貨であるリラの価値が、上下しただけです。

リラで見るから、物価が変わる。そのため金利は高くても、リラはト
ルコ国民に、信用が薄い。日本円、米ドル、ユーロをトルコのお店は
喜んで受け取る理由がこれです。

以上、
・リラの交換価値(購買力)が年々下がり、
・そのため物価が上がったように見え、
・金利は物価上昇率以上に上がったトルコ経済を見ました。

【どの国も同じ】
政府が、貿易赤字や財政赤字のため、国内の貯蓄の増加分を超えて無
際限にペーパーマネーを刷れば、どの国もトルコのようになります。

「政府紙幣の発行」と「中央銀行の国債引き受け」は、同じことです。

であるのに、日本で政府紙幣を発行論が出る理由は、民間と政府系の
金融機関が、一時的にせよ、国債を買って、保有する余裕がなくなっ
たことを示しています。

■6.どんな形のインフレの可能性があるか

先進国で、物価が何倍にも上がるハイパーインフレが起こったのは、
・戦争で生産力(工場と流通)が破壊され、
・戦費用の国債が、大量発行されたた後でした。

今は、生産力と流通は、破壊されていません。逆に、車や家電のよう
に余剰生産力がある。そのため、生産力に対し、需要が超過する形で
の「デマンド・プル型のインフレ(需要超過型インフレ)」は起こら
ない。

可能性があるのは、
・通貨価値の下落によるインフレと、
・インフレ率に呼応する、市場金利の上昇です。

これを、先駆けて示すのが前記の、米欧の長期金利の上昇です。
マネー動きのほうが、物価より早い。

▼米国にインフレの可能性が高い

米国は、今はまだ、円以外に対しては、ドルの相対価値(為替交換の
価値)を減らしていません。

【ドルペッグ国】
中国と(イランを除く)アラブは、通貨を米ドルにペッグし、準固定
相場にしています。

ペッグとは、自国通貨が上がる気配があると、
・政府・中央銀行が自国通貨を売り、
・ドルを買って、自国通貨を下げる。

自国通貨が下げる気配のときは、
・保有するドルを売って、
・自国通貨を買って上げる。

この調整を行うのがドルペッグです。

米ドルにペッグする理由は、米国への輸出のためです。輸出のため対
ドルの為替相場を固定させる。自国通貨が上がれば、米国内の価格が
上がって、輸出品が売れなくなるからです。

中国、中東、日本のような貿易黒字国の通貨は、上がらねばならない。
しかし、中国と中東は、輸出のため通貨をドルに固定した。日本は政
府のドル買いで、2008年7月まで、円安に誘導していたのです。

【それ以外の新興国】
そして世界には、トルコのように、国民が、自国通貨より米ドルを信
用する国も多い。

90年代後期から進んだ世界経済のグローバル化は、ドル経済圏を拡大
しました。つまり、世界のドル需要は、世界経済の高い成長率(実質
5%台)に合わせ増えていた。

そのため、米国がどんなにドルを刷っても、ドルは吸収され高かった。
2000年代は、円のほうが、むしろ安かったのです。

海外が、強いドル債を買うので、米国の対外債務は、$20兆に拡大し
たのです。(注)米国の対外債権は、$15兆。

【米国の対外債権売りがあった】
リーマンが破産した昨年9月以後は、グローバルに活動していた米国の
金融機関(特に5大投資銀行)、ファンド、企業は、本社の資金繰りの
ため、世界各地にもつ対外債権(社債や株)を売っています。

これがドルの、米国本社への還流になった。例えば、インドで株を売
れば、ルピーが手に入る。そのルビーでドルを買い、本国に送金する。
これでルピー売り(=ルピー安)、ドル買い(ドル高)になる。

米国の金融機関と企業は、他国の通貨を売り、米ドル買いをした。

このため、ドル債券を最大にもち、その売りが大きかった円以外に対
して、ドルは下がっていません。

むしろ、新興国の通貨が全部下がり、高かったユーロすらも、米国か
ら売られて下げています。

通貨を下げたユーロと新興国(下記諸国)には、今、ドル不足が起こ
っているくらいです。

▼強いドルが言われるがその実態は

昨年、米ドルに対し、通貨を下げた国を挙げれば、以下です。括弧内
が下げ率です。

英国(-18%);カナダ(-10%):ユーロ15カ国(-5%):ノルウ
ェー(-9%);ハンガリー(-9%);ポーランド(-10%);ロシ
ア(-9%);スウェーデン(-11%);トルコ(-12%);オースト
ラリア(-12%);インド(-9%);マレーシア(-5%);インド
ネシア(-9%);韓国(-20%);タイ(-11%);アルゼンチン(
-5%);ブラジル(-14%);メキシコ(-15%);ベネズエラ(-
53%);チリ(-16%)・・・〔英エコノミスト誌より計算〕


これらの国で、米国の投資銀行・銀行・ファンド・企業が、株、社債、
証券を売った。

ここに挙げなかった主要国は、対ドル相場を維持しています。中国、
中東、シンガポール、台湾、エジプト、イスラエル等の、事実上のド
ルペッグ国です。

日本円のみが、米ドルに対し20%以上、上げました。日本の金融機関
が、08年9月以降、金利が下がったドル債にリスクを感じ、売ったため
です。これは、正しい行動です。

▼強いドルと逆に・・・

しかし以上の、円以外の通貨の下落データは、米ドルと米国経済の強
さを意味するものではない。逆の、弱さを示すものです。

本社の巨額損失で苦しくなった資金繰りを埋めるため、やむなく、対
外債権を売っているからです。

そのため、上記の国々の通貨は、米ドルに対し下げた。米国の対外純
債務は、対外債権の減少〔=売り〕によって、逆に、一層、増えてい
ます。

●米国の金融機関と企業による、海外での保有債券売りが、海外によ
る米債券の売りを上回る間は、今のドル高が維持されるでしょう。

●しかし、いずれ近々、米国が海外で売る債券より、海外が売るドル
債券が上回ります。米国は、対外債務のほうが$20兆と多いからです。

米国は、消費財のほぼ50%を、輸入している国です。この構造は、数
年では変わらない。そのため、米ドルの世界の通貨に対する下落によ
って、輸入品の物価が上がる時期が来る。

■6.米国の消費者物価が上がり、金利が上がるとき

経済では、時期の判定は難しい。

ドル下落が起こるのは、
・2009年度中(09年4月から10年3月)に、金融・経済対策のためにド
 ル国債が大量発行され、
・それを日本・中国・中東が買えないと世界が認識する時期からでし
 ょう。

▼ドル債購入の大手は3カ国

上記3国は、いずれも対米輸出で貿易黒字を出していました。
08年8月以降は、早くも日本が貿易赤字に転落しています。

中東も原油が$30~$40なら、貿易赤字になる。
中国の貿易黒字も、急減します。
そのため、米ドル債を買う資金源がなくなる。

ドル下落はいつか? (注)これは、直感です。

【2009年度の後半か?】
2009年度の後半に、世界が「ドル国債が、海外には売れない。米国の
FRBしか買わない。」と感じる時期が、来るように感じます。

なにせ、発行額が、07年までの$1兆(90兆円)どころではない。$2
兆(180兆円)、そして・・・$3兆(270兆円)になるからです。

【FRBの急な信用膨張】
米国FDRBの資産は、
・金融機関の不良証券の買い取りと、
・緊急融資で、
・$2兆(180兆円)と08年8月以前の$8000億(72兆円)の、2.5倍に
 膨らんでいます。

すでに、ここ5ヶ月でFRBは108兆円分、増加資金供給をしています。
(09.01.22時点) 

今後、国債買いで$3兆(270兆円)、$4兆(360兆円)になるのも時
間の問題でしょう。
http://en.wikipedia.org/wiki/Federal_Reserve_System

米ドルは、現時点では、日本円に対してのみ、20%以上も下げたもの
の、(上記のように)他国の通貨に対しては、価値を維持するか、む
しろ、10%~20%も上がっています。

このため、米国のGDP($12兆)に対する対外債務($20兆)は2倍近
くと大きくても、トルコのようにはなっていない。

【日本は、$買い支えの能力を喪失した】
わが国政府は、ドル基軸体制を守ると、口では言います。
しかし米国債を買う資金源は、一体どこにあるのか。

財務省は、国債に札割れが生じ、政府紙幣や無金利国債の発行を言う
くらい、追い詰められています。貿易は、昨年秋から赤字に転落した。

政府に、これ以上ドル債を買い支える資金があるはずもない。(注)
日本の対外債権は、610兆円と、世界最大に巨額です。中国でも150兆
円でしょう。

【ユーロはもともと、反ドル基軸だった】
統一通貨ユーロは、ドル基軸の米国支配の体制から、逃れようとする
欧州の思惑から来ています。ドルの下落で損をしてはたまらないとい
うところからです。

ドル基軸が崩れるのは、政治的なリップサービスは別にして(本音で)
欧州は歓迎でしょう。フランスのサルコジ大統領が、ドル基軸は終
わったと言うのは、石油を生む中東圏をユーロ基軸に変えるためです。
金融面では米国と一体の、英国とスイス(ユーロへ非加盟)は別です
が・・・

【認識から】
ここからは、壮大で、しかし実際は滑稽な、金融のドラマです。

(1)2009年の秋から年末にかけ、世界が、大量発行されるドル債は、
事実上、米国FRBしか買っていないと認識する。

(2)そのとき、$20兆(1800兆円)の、世界にバラまかれたドル債(
国債、社債、住宅証券、株)に、売りが起こる。

【米国の消費者物価】
米ドルは、今度は、世界の通貨に対し、下げる。
消費財の50%を輸入に頼る米国では、ドルが下落すれば消費者物価が
高騰します。

そうすると、米政府とFRBの意図に反し、金融市場の長期金利が、消費
者物価の上昇率を追って、上げる。

物価の上昇は、今度は、国が止められない。
経済対策のため、金利を上げることができないからです。

【帰結は・・・】物価が上がって金利も上がり、経済は恐慌めいた不
況、つまり米国経済は、強度のスタグフレーションになる。

これは、米国債、$建て社債、$建て住宅証券、$建て株の、下落を
意味します。

米国の消費者物価が、50%の輸入物価の20%高騰(米ドル20%下落)
で、消費者物価の加重平均が10%水準に上がるようになれば、FRBが金
利を下げても、市場の長期金利は、8%にはなるでしょう。

残存期間5年の米国債は、以下のように価格を下げます。

$100額面=(1+2%×5年)×100÷(1+8%×5年)=110÷1.4≒
$79・・・21%下落

この債券価格の下落率は、社債、住宅証券、株でも同じです。
つまり$20兆の対外債務(証券)が、21%下げる。世界が被る損失は
$4兆でしょう。

損をしてはたまらないので、下落(=市場金利の上昇)を予測し、米
国債、社債、住宅証券、株が、海外から売り浴びせられます。

債券の価格は、金利と物価の予想で決まるものです。

(注)最後まで売らないのは、日本政府だけでしょう。金融機関は売
るはずです。金利が高いと言って買った、米国の住宅証券で1.5兆円を
失った農林中金のようになってしまうからです。そうなると、経営者
責任を問われます。

【想定】
そのとき、米国は、大統領令で、過去のドルを旧ドルとし、新ドルの
発行を行う可能性が生じます。1971年にニクソンが、突如、金・ドル
交換停止を発動したのと同じです。

新ドル発行(グリーン・バックに換えるブルー・ノート)は米国の通
貨当局(FRB)では、すでに議論されています。

私の、オリジナルな論ではない。米国金融の重鎮ボルカーを、オバマ
大統領が経済回復諮問会議の議長に任命したのは、この準備に思えて
なりません。

【後記】
日本の政府紙幣や無利子国債は、政府財政の救いのように思われてい
ますが、実際は逆です。1%台の金利の国債を、市場が買わないという
状況を示しているからです。財務省も、追い詰められています。

政府がペーパーマネーを刷って、金融機関と企業に貸せば、金融や経
済が回復し、解決するわけではない。

それで解決するなら経済も、簡単なものです。生産する代わりに、国
がマネーを刷ればいい。これがどんなに滑稽なことか、孤島の経済を
想定すれば、わかるでしょう。

しかし米ドルは、対外債務$20兆(1800兆円)でも、信用されてきた。
そのため国債・社債・住宅証券・株券(いずれも紙)を刷って、海
外に渡し、そのマネーで商品を買うことができたのです。

海外が米国を信用したからです。しかし、いよいよ、米ドルの信用も、
どん詰まりに来た感じです。

欧州はゴールドを買い始めたようです。

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

【ビジネス知識源プレミアム:感想は自由な内容で。以下は、項目の
目処です。】

1.内容は、興味がもてますか?
2.理解は進みましたか?
3.疑問点はありますか?
4.その他、感想、希望テーマ等
5.差し支えない範囲であなたの横顔情報があると、今後のテーマと
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