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永山卓矢の経済・金融・市場の本当の話

永山卓矢(金融アナリスト)

永山卓矢

経済・金融の動き、相場・市況の動きの背景には、新聞その他、メディア媒体で伝えられているものだけでは本質を理解できないことが多いものです。むしろ、メディア媒体は大手であればあるほど、それ自体が権力機構の一部と化しているので、意図的に真の事情を隠蔽していることが多いといえます。

そこで当メルマガでは出来る限り、経済金融や相場市況を動かしている本質について、裏側の権力闘争を含む政治的な要素も絡ませながら、実態をお知らせしていくことにしたいと思っております。またその際に、本質を追究するあまり、経済的な動きや市況の動きを反映せず、非現実的な内容にならないように留意していきたいと思っております。

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永山卓矢の経済・金融・市場の本当の話
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                  永山卓矢の経済・金融・市場の本当の話

                            2013年 9月XX日号

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■米量的緩和策の継続の是非をめぐる路線闘争をみる

 米連邦準備理事会(FRB)は9月17~18日の連邦公開市場委員会(FOMC)で金融政策の現状維持を決めた。事前には量的緩和第3弾(QE3)の縮小開始が決まるとの見方が支配的だったが、現行の政策をそのまま続けることになった。

 FRBは昨年9月13日に住宅ローン担保証券(MBS)を毎月400億ドル、さらに12月12日には追加で国債を毎月450億ドル買い入れることを決めた。ところが、中央銀行であるFRBがこのまま資産を買い入れることに対して、各地区連銀総裁を中心に反対する声が強くなっていった。そこでベン・バーナンキ議長は今年5月22日の議会証言で、雇用の持続的回復が確認できればという条件付きながら資産買い入れ額の早期縮小に言及した。さらに6月19日にはFOMC後の会見で、年内にQE3の縮小を開始し、その後資産買い入れ額を減額していき、来年央に終了するというスケジュールを公言した。

 その後もFOMC関係者からは、早期に縮小の開始に取り組むべきだといった“タカ派的”な発言が相次いで出てきた。そうしたこともあり、市場では9月のFOMCでその開始に着手するといった見方が強まって既定路線と化した雰囲気が強くなり、もはや最初の資産購入の減額幅がどの程度になるかに注目が集まるようになっていた。ところが、FOMCでは買い入れの縮小そのものを見送ることに決まった。

 その背景には、FRB内部やその背後に控える権力者層の間で激しい路線闘争が行われていることがうかがわれる。量的緩和策をこのまま続けることで株価や住宅価格をさらに押し上げ、経済の活性化を重視しようとする勢力が一方にいるようだ。これに対し、あまりにそうした政策を推し進めると悪性インフレ=ドル不安を引き起こす危険性を高めてしまうので、そうした非伝統的な政策はあまり長期的に続けるべきではないとする勢力もいるようだ。


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■FRBの量的緩和策と株価の動きには密接な関係がある

 非伝統的な量的緩和策が経済・金融に及ぼす効果については、多くの経済学者やエコノミストの間では、金融危機により流動性危機が起こった際には緊急避難的に実施すれば有効であるものの、景気を浮揚させる効力には乏しいという見方で見解の一致をみているといって過言ではない。金融危機が起こると銀行間で資金の貸借をする市場では互いに疑心暗鬼に陥ってしまい、容易に貸し出しに応じなくなるので資金需給がひっ迫し、信用危機が一気に拡大してしまう。そこで中央銀行であるFRBが緊急避難的に流動性を供給し、資金需給のひっ迫状態を緩和させることが求められる。

 しかし、金融危機ではない状態で量的緩和策を推進しても、供給された資金は民間銀行がFRBに開設している当座預金に滞留していくだけで、流通することはない。銀行が貸し出し意欲の乏しい時にいくら中央銀行が資金供給を拡大しても、その多くは貸し出しには回らないのである。

 しかし、量的緩和策にはもう一つの大きな効能がある。それは、株価や住宅価格といった資産価格を押し上げる効果があることだ。米経済は国内総生産(GDP)の7割ほどを個人消費が占めている消費主導の経済構造であり、株価や住宅価格が引き上げられれば、その資産効果から消費意欲が高まることで経済状況が活性化しやすい。

 2008年9月15日にリーマン・ショックによる金融危機が起こってから、FRBは量的緩和策を3回行ってきた。まず、同年11月から10年6月にかけての20カ月間で、金融危機の“元凶”とでもいうべきMBSを1兆2,500億ドル、これに米国債を3,000億ドル、その他資産を1,750億ドルの計1兆7,250億ドルもの巨額の資産をFRBが買い入れることになった。これが量的緩和第1弾(QE1)である。その後、10年11月にはFRBは翌11年6月にかけて、米国債を6,000億ドル買い入れる量的緩和第2弾(QE2)を実施した。さらに、現在では12年9月からMBSを400億ドル、12月から米国債を450億ドルの計850億ドルを毎月買い入れるQE3が行われている。

 これら一連の量的緩和策は、確かに米国の金融資産市場を押し上げるには大いに効力を発揮した。代表的な株価指数であるニューヨーク・ダウでみると、2007年10月11日に1万4,198.10ドルの史上最高値を記録した後、サブプライム危機とリーマン・ショックによる金融危機を受けて急落した。特に08年9月30日には下院が緊急経済安定化法案をいったん否決したことで前日比777.68ドル安と史上最大の下げ幅を記録したこともあり、09年3月6日に6,469.95ドルの安値をつけた。この安値が大底となり、株価は金融危機対応や大型の景気対策が打ち出されたことを好感して鮮明に反発していった。同年10月には1万ドル台を回復し、翌11年5月3日には1万2,846.00ドルの高値をつけた。その後、10月4日に1万404.49ドルまで下げたが、それから再び上昇して12年中には1万3,000ドル台を回復し、さらに13年には07年10月11日の史上最高値をも超えて1万5,000ドル台後半に達している。

 ここで注目されるのは、この株価の動きは明らかにFRBが量的緩和策を打ち出すと高騰していることだ。ダウは09年3月の6,500ドルを割る水準から急反発したが、FRBは金融危機対応としてそれに先立つ08年11月からQE1に踏み切っていた。この株価の急反発は10年4月26日の1万1,258.01ドルでいったん上昇が止まったが、市況は経済事象や実体経済の動きを織り込んで動くものであり、まさにQE1が6月で打ち止めになるのを先取りしたものだった。その後、ダウは7月2日の9,614.32ドルまでの調整局面を経て、翌11年5月3日の1万2,876.00ドルでいったん天井を打った。これは10年11月からQE2が始まるのを好感して上昇し、翌11年6月末にそれが終わるのを先取りして5月上旬に天井打ちしたことに他ならない。さらにごく最近の事象でいえば、アメリカでは12年秋以降、複数の大型減税の失効と歳出の強制削減が翌年初頭から始まる「財政の崖」を控え、景気が大きく落ち込むことが懸念されていたにもかかわらず、ダウが1万3,000ドル前後の水準を維持していたのは、FRBが9月13日にQE3に動き、12月12日にもその強化策を打ち出したことが関係していることは間違いない。米株価の動きとFRBによる量的緩和策には密接な関係があるのは明らかである。

 それでは、一段と株価を高騰させるためにFRBがQE3を続けて、さらに強化していけば良いのかというと、それほど話が単純ではない。米国の政策当局者や権力者層のなかには、悪性インフレが起こるのを恐れている勢力が見受けられる。悪性インフレとは通貨価値が喪失して引き起こされるインフレのことであり、それが実現すると、通貨価値を基盤とする市場経済が大きく動揺する事態を引き起こされかねなくなる。通常、インフレといえば総需要の規模に対して供給力が賄えなくなることで生じるものだ。エコノミストや経済学者が使う理論でいえば、需給ギャップ(総需要の規模に対する供給力の差(ギャップ))の観点からインフレ・ギャップが拡大することで引き起こされるが、悪性インフレはそうした通常のインフレとは異なるものだ。米国は基軸通貨国なので、ドルに対する信頼が喪失されることは、ドル基軸通貨体制が動揺することで米国の世界覇権体制そのものが揺らぐことを意味する。それだけに、量的緩和策をこのまま継続することに異議を唱える勢力が出てきておかしくないわけだ。


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■ネオコン・リフレ派とCFR・PIIE系

 量的緩和策の継続により資産価格が上昇し続けることを重視する勢力はリフレーション(リフレ)派に多くみられる。この系列は人々の「期待」に働きかけることを重視する傾向が強く、中央銀行が少なくともある時期までは一定程度の資金供給拡大策を続けることを「約束」することで、人々の間で株価や住宅価格に対する先高期待を高め、またインフレ期待をも高めることで経済活動を活発にさせようとしている。こうしたジャブジャブに資金供給を続けるべきだとする主張は、潤沢な成長資金の供給を望んでいる産業界の支持を得やすい。特に米国は世界覇権国であり、世界でも群を抜く軍事力を維持し続ける必要があることから、国家財政のなかで国防費は社会保障費と並んで“聖域”扱いされやすい。このため、こうした系列は産業界、それも特に軍需産業から支持を得やすいことから、政治的・安全保障面では米国が積極的に世界的に軍事的に関与していくことを主張している新保守主義(ネオ・コンサーヴァティブ(通称ネオコン))派と密接に結びつきやすい。また、米国の政財界の権力中枢にはユダヤ系が大きな影響力があるだけに、中東に巨大な軍事力を展開させるうえで親イスラエル的な性格を帯びやすい。

 これに対し、過剰な資金供給拡大策の継続に反対し、財政赤字の削減をも進めることで基軸通貨ドルの価値を維持することを主張している勢力は、国防費の伸びを抑えるうえで、無用な戦争を引き起こすことを避ける傾向が強い。その中心的な勢力が米外交問題評議会(CFR)であり、欧州や中東から米軍を抜本的に撤収させ、台頭してきた中国への対処からアジアに駐留軍を強化するといった米軍再配置を主導しているのもこの勢力だ。ただ、中国を封じ込めるとはいっても、尖閣問題その他で偶発的にせよ武力衝突が起こると軍事費を増額しなければならなくなるので、そうした状況も嫌う傾向がある。さらに、米国では予定より2ヵ月遅れて今年3月1日から、向こう10年間で国防費と社会保障費を各6,000億ドルの計1兆2,000億ドルもの財政支出が削減されることになったが、この法案を成立させたのもこの系列の主導によるものだ。当然のことながら中東からの駐留米軍の規模削減を推進しているため、対イスラエル政策を軽視する傾向が強い。

 このCFRの経済・金融部門とされるのがピーターソン国際経済研究所(PIIE)であり、以前には長らくフレッド・バーグステン氏が所長を務めていたが、最近、アダム・ポーゼン氏に代わった。ポーゼン氏はFRBに対してはQE3の出口に向けた動きを支持する一方、自身が長期にわたり英国で通貨政策委員会委員を務めて物価目標値を設定した量的緩和策の推進を主導しただけに、米国以外の国・地域に対しては量的緩和策の推進を支持している。これは、米国が量的緩和策を中止しても、米国に準じる経済規模を有する大国でそうした政策が推進されていれば、投機筋がキャリー取引を積極的に繰り広げることによりその国の資金を調達してドルに換え、米金融市場に投資していけば、ドル不安に陥る心配をせずに長期金利が低水準で安定し、資産市場を高騰させていくことができるからだ。それに最も成功したのが、ビル・クリントン政権下の90年代後半だった。

 ジョージ・ブッシュ前政権下ではおおむねネオコン派が主導権を握り、01年に「9.11同時多発テロ事件」が作為的に引き起こされたことで対テロ戦争が推進され、翌10月のアフガニスタン戦争や03年3月のイラク戦争が引き起こされた。バラク・オバマ現政権はおおむねCFR・PIIE系が主導権を握っているが、ヒラリー・クリントン前国務長官に率いられたネオコン派の系列が影響力を強めた時期もあったようだ。


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著者:永山卓矢 (金融ジャーナリスト)
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