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山田順の「週刊:未来地図」 ― 日本は、世界は、今後どうなっていくのでしょうか? 主に経済面から日々の出来事を最新情報を元に的確に分析し、未来を見据えます。

山田順(ジャーナリスト・作家)

山田順

山田順の「週刊:未来地図」No.759: トランプ関税ついに発動!歴史は繰り返し、世界は帝国主義時代に逆戻りか?


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  山田順の「週刊:未来地図」                 

   No.759 2025/01/21

トランプ関税ついに発動!

歴史は繰り返し、世界は帝国主義時代に逆戻りか?

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 大統領就任式での宣誓により、ついに「トランプ2.0」が始まった。自らを「タリフマン」(関税男)と呼ぶ第47代(再選)大統領のトランプは、はたして本気で世界中に関税をかけまくるのだろうか?

 これまで広言してきたところによれば、関税を徴収する「外国歳入庁」を即座に創設し、「緊急事態」を宣言して、引き上げを実施することになる。

 もちろん、こうなれば世界は「関税戦争」に突入する。トランプの狙いは中国封じ込めだが、日本をはじめとする同盟国まで影響を受けるのだから、たまったものではない。

 そこで今回は、関税に関する歴史を振り返って、そこから得られる教訓を整理してみたい。

  写真©️NHK BS「国際報道」

[目次]  ─────────────────────

■「緊急事態宣言」をしてまで関税を引き上げる

■関税を納めるのは輸入業者、最終負担は国民

■「比較優位説」による自由貿易に関税は不要

■なぜ世界にはWTO、EPA、FTAがあるのか?

■「関税自主権」がないと独立国とは言えない

■大恐慌対策のための「スムート・ホーリー関税法」

■関税のかけ合いによる「関税戦争」に勝者はない

■価格上昇で最大780億ドルの消費力が失われる

■トランプが崇拝するマッキンリーとその時代

■「米西戦争」でキューバ、フィリピンなどを獲得

■アメリカ議会予算局による関税の影響試算

■マッキンリーは再選後アナーキストに暗殺された

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■「緊急事態宣言」をしてまで関税を引き上げる

 

  トランプがなぜ自らを「タリフマン」(tariff man:関税男)」と呼び、ここまで関税に固執するのかは、正直、よくわからない。ただ、これまでの発言から、関税が対外交渉の最高の武器だと考えているのは確かだ。


 貿易赤字がある限り「MAGA」(メイク・アメリカ・グレート・アゲイン)は達成できない。アメリカ帝国は復活しない。よって、関税を引き上げようというのだ。

 そのため、外国からの歳入のすべてを徴収する「外国歳入庁」(External Revenue Service)を即座に創設すると、自身のSNS「Truth Social」で表明した。ただ、関税はすでに米国税関・国境取締局(CBP:U.S. Customs and Border Protection)によって徴収されているので、新たな政府機関は必要ない。また、それを納税するのは国内の輸入業者である。


 よって、トランプは関税をよく理解してないのではという見方もあるが、トランプのことだから、段階的にせよ必ず実施する。

 

 なにしろ、実現するために「緊急事態宣言」(Declaration of emergency)を出すとまで断言している。アメリカでは関税措置の権限の一部は大統領に移譲されていて、その法的根拠は複数ある。

 このうち「国際緊急経済権限法」(IEEPA:International Emergency Economic Power)という法律を使えば、大統領が「緊急事態」を宣言することで、課税および税率変更は可能なのだという。

 

■関税を納めるのは輸入業者、最終負担は国民

 

 関税の歴史を紐解くと、起源は古代都市国家での課税制度に行き着く。都市国家は、特定の地域を通過する物品や通行人に対して税金を課していた。

 ローマ帝国は、交易品に対して25%もの高額な関税を課し、交易が盛んになるほど関税収入が増えて国家財政が潤った。

 

 時が下って、近現代では、関税は国境を超える物品に課す税を指すようになり、「国境関税」(border customs duties)と言われるようになった。輸出入どちらにも課税できるが、ほぼ「輸入品に課される税」として定義されている。

 よって、関税を納めるのは、輸入業者であり、最終的にはその輸入品を買う国内の消費者が負担することになる。

 

 したがって、トランプが言ったように、すべての輸入品に一律10%の関税をかければ物価は上昇する。その品物が国内で生産できるものならいいが、たとえばチョコレートの原料のカカオとなると、アメリカ国内では生産されていないのでチョコレートの価格は確実に上がる。

 

■「比較優位説」による自由貿易に関税は不要

 

 高率関税を課すことは、経済の発展段階が低い途上国においては、2つのメリットがある。1つは、それによって国家財政の財源が確保できること。もう1つは、国内産業および市場の保護と振興・育成ができることだ。

 関税を課せられた輸入品は、国内での販売が低下する。その間に、同じ物品をつくる国内の業者が育成できるからだ。

 

 しかし、経済発展がある程度に達した国々においては、関税は一部を除いて必要がない。

 デヴィッド・リカードの「比較優位説」(comparative advantage)に立てば、自由貿易の下では、自国が得意な商品を輸出して不得意な商品を輸入することで、自国と貿易相手国双方が利益を得られるからだ。


 つまり、関税は自由貿易の敵であり、自由貿易を促進することで、これまで世界経済は発展してきた。

 

■なぜ世界にはWTO、EPA、FTAがあるのか?

 

 第2次世界大戦後の世界は、関税のかけ合いによる保護主義が戦争の一因になった反省から、自由貿易をさらに促進することになった。

 そのため、GATT(General Agreement on Tariffs and Trade:関税および貿易に関する一般協定)が結ばれ、その後、GATTの延長・発展形としてWTO(World Trade Organization:世界貿易機関)ができた。

 

 ただ、近年、WTOが部分的に機能不全に陥ったので、多国間でEPA((Economic Partnership Agreement:経済連携協定)、FTA(Free Trade Agreement:自由貿易協定)が結ばれるようになった。いずれも、関税を撤廃するか、できる限り低くすることを目指している。

 ちなみに、日本の関税収入が国家収入に占める割合は2%弱。先進国とされる国においては、だいたい5%以下である。

… … …(記事全文7,044文字)
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