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山田順の「週刊:未来地図」 ― 日本は、世界は、今後どうなっていくのでしょうか? 主に経済面から日々の出来事を最新情報を元に的確に分析し、未来を見据えます。

山田順(ジャーナリスト・作家)

山田順

山田順の「週刊:未来地図」No.774:トランプは中国を舐めている! 多極化か中国の覇権奪取か?来るべき世界とは?


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山田順の「週刊:未来地図」                 

No.774 2025/05/06

トランプは中国を舐めている!

多極化か中国の覇権奪取か?来るべき世界とは?

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トランプがアメリカ大統領に復帰してから、世界は大きく揺れている。まさかまさかのうちに、世界は以前とは大きく違ってしまった。それにしても思うのは、トランプが持っている世界観、歴史観と、私たちが持っている世界観、歴史観がまったく違うことだ。

 1人のとんでもない指導者の誤った世界観、歴史観というより、“妄想”とか“自己顕示欲”とか言ったほうがいいものに、世界中がいま振り回されている。

 はたして、こんなことがいつまで続くのか? というより、このまま世界はいままでとはまったく違ってしまうのか? 地政学的に言えば、これまでのアメリカの1極覇権世界が終焉を迎え、世界が多極化してしまうのか? そうして、中国が次の覇権を握るのか? それが、現在の最大の問題である。

[目次]  ──────────────

■トランプ出現は歴史的に珍しいことではない

■覇権国が覇権挑戦を受けた歴史を振り返る

■アメリカ単独では中国を退けられない

■「中国の夢は実現しない」は間違いだった

■中国経済はすでにアメリカを凌駕している

■汚職・賄賂を一掃して縁故資本主義を脱出

■シンギュラリティが来てAIが覇権を決定する

■米中で熾烈を極めるAGIの開発競争

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■トランプ出現は歴史的に珍しいことではない

 

 ともかく、1人のとんでもない男によって、世界が大きく変わろうとしている。いや、すでに変わってしまったと言っていい。ローマ法王に扮した写真をホワイトハウスの公式画像に載せるのだから、もはや言葉もない。

 

 こうなると、トランプがどれほどひどいかを論評しても仕方ないので止めておくが、問題はこれがいつまで続くかである。続けば続くほど、世界はとんでもない方向に進んでいき、元に戻れなくなる。

 つまり、アメリカの1極覇権世界が終焉を迎え、世界は多極化する。そうして、中国がアメリカに代わって覇権を握る。いずれにせよ、自由、人権、民主主義は失われ、これまでとは違った世界になってしまう。

 

 しかし、ここで歴史を振り返ってみると、こういったことは何度も起こっている。歴史というのは、1人のとんでもないリーダーの出現で、これまで大転換を遂げてきたからである。例えばナポレオン、ヒトラー、スターリン、毛沢東など、みなとんでもない人間であった。よって、トランプの出現は少しも珍しいことではなく、その出現は歴史的必然なのかもしれない。

 

■覇権国が覇権挑戦を受けた歴史を振り返る

 

 いま、トランプがやっていることは、完全な“妄想”に基づくデタラメだが、覇権国のリーダーとしては、本能的に間違っていない。なぜなら、覇権国は、次に覇権をねらう覇権挑戦国を本能的に封じ込めようとするからだ。

 「MAGA」(メイク・アメリカ・グレート・アゲイン)はその現れであり、覇権の危機を感じなければ、こんな言葉は出てこない。

 

 歴史を見ると、覇権国は常に覇権挑戦国を報じ込めようとしてきた。

 紀元前では、古代ローマがカルタゴの挑戦をポエニ戦争によって退け、最終的にカルタゴは滅ぼされた。近世では、スペインがオランダとともに英国包囲網を敷いたが、これに失敗し、英国が次の覇権国となった。


 英国が7つの海を支配する覇権国となってからは、ナポレオン帝国、ロシア帝国、ドイツ・オーストリア帝国、ドイツ帝国(ヒトラー・ナチス)と4度の挑戦を受け、いずれも退けた。

 しかし、ヒトラー・ナチスには独力で勝てず、アメリカの助けを借りるかたちとなって、完全に覇権は交代した。

 

 こうして20世紀はアメリカの1極覇権となったが、それに挑戦し続けたソ連との冷戦は続いた。しかし、1991年、ついにソ連を崩壊させた。それと前後して日本の経済挑戦も受けたが、これもアメリカは退けた。

 そして、次に現れたのが中国である。中国は21世紀を迎えるまでは脅威ではなかったが、現在は過去のどんな挑戦国よりも強力で、手強い相手である。

 しかし、トランプはそうは思ってはいないようだ。

 

■アメリカ単独では中国を退けられない

 

 トランプは本能的に中国の挑戦を封じ込めよう、叩き潰そうとしている。そして、それが関税によって簡単にできると踏んでいる。つまり、彼には過去の中国観しかなく、かつての日本と同じく「モノマネものづくり国家」としか見ていない。

 

 そうでなければ、同盟国にまで法外な関税を課すなどという“ 愚挙”をするはずがない。要するに中国を舐めていて、アメリカ単独でも中国の挑戦を退けられると思っているのだ。

 

 この考えが強まったと思えるのが、最近の中国の経済失速である。コロナ禍を脱した後も低迷は続き、不動産バブルは崩壊、GDP成長率は下降中である。

 さらに、少子高齢化が進み、そんななかで若者たちの失業率は過去最高を記録している。

 

 こうなると、「もはや中国にアメリカを追い抜く力はない」と思い込むのは、当然かもしれない。しかし、それは大きな間違いである。いまの中国は、欧州諸国や日本、そしてオーストラリアなどの自由と人権、民主主義を共通の価値観とする同盟国の力を借りなければ、封じ込めないのだ。

 

■「中国の夢は実現しない」は間違いだった

 

 いまから10年ほど前、私は『「中国の夢」は100年経っても実現しない』(PHP)という本を書いた。

 習近平が就任以来、唱えている「中国の夢」とは、2049年、つまり中華人民共和国の建国100年までに、「中華民族の偉大なる復興」を成し遂げようというもの。それが、実現しないだろうというが、この本の主旨である。


 自由がない、人権がない、環境汚染はひどい、賄賂が横行するなどという国は、いくら経済発展しようと、国際社会で信用され、人類の未来に貢献できるわけがないと断じたのだ。

 

 当時の中国は、たしかに大発展していた。私は、その状況を各地で見た。北京、上海、蘇州、南京、青島、済南-----どこに行っても、建設、建設、開発、開発のラッシュだった。

 

 しかし、それで潤った人々は、政府を信用せず、信用しているのはカネとコネと身内だけ。その結果、カネをつかんだ者からあっさり国を捨て、出て行ってしまう。

 これでは、「偉大なる復興」などあり得ないと思ったのだ。

しかし、いまは見間違った。考えは、間違っていたと恥じている。

 

… … …(記事全文5,494文字)
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