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山田順の「週刊:未来地図」
No.779 2025/06/10
ウクライナ戦争、印パ戦争の衝撃
「自律型AI」が使えないと未来はない!
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最近、本当に衝撃を受けたのは、戦争がハイテクによって、これまでとまったく変わってしまったことだ。ウクライナのドローン攻撃によるロシア空軍の大損害、印パ戦争におけるインド空軍の惨敗は、まさにそれを物語る象徴的な出来事だった。
戦争がここまで変わってしまったのだから、社会もビジネスも変わる。経済も金融・投資も変わる。変わる原動力はもちろんAIだ。いまやAIはどんどん進歩し、ついに「自律型AI」(Agentic AI)の時代がやってきた。
いったい、自律型AIとなにか? それによって、この世界はどう変わるのか?
専門外だからいいやと思う私でも、ある程度理解しないといけないと悟り、今回は、いろいろ調べて、以下、まとめてみた。
写真:ウクライナがSNSに投稿したロシア空軍基地ドローン攻撃の動画
[目次] ─────────────
■ロシア国内潜入作戦によるドローン攻撃
■低空からのドローン攻撃に対して無防備
■最新鋭戦闘機ラファール3機が撃墜される
■インド空軍のキル・チェーンは機能せず
■自主性を持って自ら判断して行動するAI
■戦争で活用されている主な自律型AI
■自律型AIとはなにか? AI進化の5段階
■トランプとイーロン・マスクの決別に思う
■自律型AI導入が絶望的に遅れている日本
■投資はAIがやり、人間はAIのパートナーに!
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■ロシア国内潜入作戦によるドローン攻撃
まずは、6月1日、ウクライナ・ロシア戦争で起こった画期的な出来事、ウクライナのドローン攻撃によって、ロシアの飛行場4カ所が攻撃され、戦略爆撃機など41機が破壊されたこと(ウクライナ側発表)だ。被害額は日本円換算で約1兆円とされ、ロシアはこれまでになかった大きな損害を受けた。
しかも、この4カ所の飛行場は、みな、ウクライナとロシアの国境から遠く離れたロシアの内陸部にあり、もっとも遠いイルクーツク州のベラヤ空軍基地は、なんと4500キロも離れていた。
つまり、これはウクライナの特殊部隊による「潜入作戦」で、ドローンはある時点で工作員によりロシア国内に運ばれ、基地近くに隠されて配備されていた。そして、遠隔操作によって、一斉に攻撃が行われたのである。
当初、SNSに投稿された画像には、トラックから飛び出すドローン、攻撃を受けて立ち上る黒煙、また、トラックが自爆する様子などが映っていた。そして、ウクライナ公開した画像には、自爆攻撃するドローンが自ら撮影したロシアの爆撃機などが、生々しく映っていた。
■低空からのドローン攻撃に対して無防備
専門家の分析を紹介した報道を見ると、このようなドローン攻撃は、地上での情報収集はもちろんのこと、衛星からの目標に関する情報も必要となる。そして、その目標へドローンを誘導するのも衛星なのだという。そして、そのプロセスを統合して分析、判断するのはAIである。
つまり、この攻撃には最先端のハイテク技術が駆使されていて、いまやそれなしでは戦争ができないことを物語っている。
ロシアはまさか、内陸部奥深くの基地が攻撃されるとは思っていなかった。そのため、ドローンによる低空からの攻撃に対する備えがなかった。重機関銃が有効とされるが、それが配備されていなかったという。
また、ドローンの遠隔操縦には、スターリンクなどのシステムが必要だが、今回は追跡が難しいロシアの携帯電話システムが利用されたのではないかという。
トランプはこの攻撃を知らされていなかったとされ、プーチンは攻撃に狼狽、激怒して、トランプとの電話会談で、「必ず報復する」と伝え、それを実行した。しかし、それは都市の民間施設へのミサイルとドローンによる夜間攻撃で、ロシアのハイテク技術が劣っていることを思わせた。
■最新鋭戦闘機ラファール3機が撃墜される
続いては、印パ戦争の空中戦で、パキスタン空軍がインド空軍を撃破したことだ。2025年5月7日、約1時間にわたって闘われた空中戦は、近年では稀な、戦闘機同士の大規模な戦闘だったが、勝ったのは予想に反してパキスタン空軍だった。
パキスタン空軍の戦闘機は中国製のJ-10CE。これに対して、インドは満を持して投入したフランス製の最新鋭のラファール戦闘機。しかし、ラファールはあっけなく3機が撃墜され、さらに、ロシア製のSu-30MKI(製造はインド)とMiG-29各1機まで撃墜されてしまった。
これは、世界中の軍事関係者に大きな衝撃をもたらした。
というのは、初めて戦場で披露された中国製PL-15 BVR空対空ミサイルの威力はもちろんのこと、現代最高とされるラファエルのSPECTRA(ミサイル防御システム)が、まったく機能しなかったからだ。
■インド空軍のキル・チェーンは機能せず
戦闘機同士の空中戦と言っても、それは空対空ミサイルの撃ち合いであり、それを遠隔操作するシステムが必要となる。探知・射撃・誘導・撃破という流れを行う一連のシステムを「キル・チェーン」と呼んでいるが、これの優劣が勝敗の決め手となるという。
具体的には、SPECTRAのようなシステムは、ミサイルを誘導するレーダーに妨害電波を送り、自動的に熱追跡ミサイルをかく乱させるために数々の網を張り巡らせる。しかし、今回、中国のJ-10CE 戦闘機から発射されたPL-15 BVR空対空ミサイルは、これらのすべてをかいくぐり、ラファールのパイロットに回避する時間をまったく与えなかったという。
インド空軍のキル・チェーンは、パキスタン側の電子戦によって無効化されたのである。インドの兵器体系は、ロシア製を中心にして各国の物をつなぎ合わせているため、このようなことになったとも言われている。
ただし、はっきりしたのは、兵器単体の性能よりも、優れたキル・チェーンの運用が重要だということだった。
■自主性を持って自ら判断して行動するAI
世界に衝撃を与えた、この2つの戦闘が象徴するのは、いまや戦争はネットワークの戦いであるということ。ドローンやステルス機などの高性能ハイテク兵器をデータリンクで結ぶことが、もっとも重要であるということだ。
そして、それを動かすのは、もはや人間ではない。AIである。
AIは日進月歩し、いまでは「Agentic AI」(自律型AI)が登場し、人間の介入なしに目標達成のために自発的に行動し、複雑なタスクを実行できるようになった。しかも、自分で学習して進化を遂げていく。
従来のAIシステムは、指示待ちで受動的だった。しかし、自律型AIシステムは、人間のように自主性を持って自ら判断して行動する。
こう教えられても、実際にそれを目の当たりにしたことがない、私のような人間にはピンと来ないし、想像がつかない。ただ、ChatGPTのような生成AIを上回るAiであることは理解できる。