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山田順の「週刊:未来地図」
No.810 2025/12/16
トランプの愚かすぎる「世界戦略」
欧州を批判し、日本を見放し、中国とG2で結託
これでは中国に覇権を奪われる!
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トランプ大統領の世界観がそのまま反映されたアメリカの「国家安全保障戦略」(NSS)が公表されて以来、世界中で不安が高まっている。とくに、中国と緊張状態に入った日本は、この戦略によって見捨てられる可能性が高まった。
懸念されるのは、中国の動向だ。中国は、明らかにアメリカに代わって世界覇権を握ろうとしているからだ。それを阻止せず、「G2」などと言い出したトランプは、本当に愚かだ。
トランプが去った後にアメリカが「自由、人権、民主主義」の国に戻らなかったら、どうなるか? 世界の混迷は深まり、日本は方向感を失って“漂流”を続けていくだろう。
[目次] ───────────────
■「唯一の超大国」という看板を下ろす
■足りないのは、「最先端半導体」と「民主主義」
■文明の危機を招く欧州の指導者をバカ呼ばわり
■「モンロードクトリン」を復活させ西半球に集中
■大きな戦略転換に北京は歓声を上げるだろう
■第一導列島線の防衛を韓国、日本などに要求
■日本を擁護せずに中国を重視するトランプ
■世界の首脳を招いた盛大な軍事パレード
■グローバル・ガバナンス・イニシアティブとは?
■中国は「世界平和の建設者」となると宣言
■蚊帳の外に置かれたニクソン電撃訪中の記憶
■1日も早いトランプの失権を願うばかり
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■「唯一の超大国」という看板を下ろす
11月5日、アメリカ政府は「国家安全保障戦略」(NSS:National Security Strategy)を公表した。NSSは、通常、アメリカ大統領が任期中に1度発表するもので、アメリカの世界に対するスタンス、優先事項を示す。よって、今回はトランプ大統領の考え方が全面的に押し出されているわけだが、これがまったくもって独りよがり、愚かとしか言いようがない。
トランプの言いなりにこの文書をまとめた官僚たちは、相当苦労しただろう。
すでに、多くの報道が指摘しているように、NSSは「アメリカ・ファースト」を全面的に打ち出して、世界覇権国家たる使命など、まったく省みていない。台湾問題はほぼ無視し、アジアには無関心。欧州は移民受け入れで「文明消滅」の危機にあるとし、中南米を重視するといった具合だ。
トランプはNSSの序文で、「われわれはあらゆる行動においてアメリカ・ファーストを掲げている」と述べ、それにより「唯一の超大国」(superpower)であろうとしてきた試みを断ち切り、「アメリカは自ら世界を支配するという破滅を招く概念を拒否する」と宣言している。
■中国にないのは「最先端半導体」と「民主主義」
アメリカが世界覇権国でなくなったら、世界はどうなるのか? それは言うまでもない。多極化世界、混沌世界の到来である。そうでなければ、覇権に挑戦している中国が、次の世界覇権国になる世界がやってきてしまう。
こう述べると、「そんなバカな」という声が必ず聞かれるが、10年前ならそれは正しかったが、いまはそうとは言えない。なぜなら、中国の力は10年前とは比べものにならいほど強くなったからだ。
いまや中国はほぼすべてを持っている大国である。名目GDPで世界第2位 の約18.7兆ドル。日本の名目GDP約4.2兆ドルの3倍以上で、アメリカの約29兆ドルに次ぐ世界第2位。
中国にないのは、「最先端半導体」と「民主主義」(三権分立)ぐらいではないか。
■文明の危機を招く欧州の指導者をバカ呼ばわり
では、トランプが鼻高々に公表したNSSを具体的に見ていこう。
まずは、私たちの運命を握る東アジアに関してだが、はっきり言ってトランプは関心が薄い。中国を「経済的競争相手」として、いちおう台湾防衛を記しているものの、「敵」としても「覇権挑戦国」としても捉えていない。
中国はとの関係はあくまで「相互有益な経済関係」であるとし、「潜在的パートナー」ともしているからだ。
続いては欧州だが、NSSは欧州が移民と主流指導者によって「文明的消滅」に直面していると指摘。「現在の傾向が続くならば、NATO加盟国は数十年内に大多数が非欧州人で構成される可能性が高い」とし、「彼らがはたしてアメリカのような価値を共有するのか疑問」だと批判した。しかも、現在の欧州のリベラルな指導者たちを「野党を弾圧している」と非難し、暗にバカ呼ばわりしている。
これでは、欧州はアメリカから必ず距離を置く。12月11日、デンマーク国防情報局(FE)は、年次脅威評価報告書で初めて、アメリカを「安全保障上の脅威」と明記したが、これは当然のことと言えるだろう。
■「モンロードクトリン」を復活させ西半球に集中
アメリカはかつて「モンロードクトリン」(Monroe Doctrine)という独自の外交政策をとっていたことがある。1823年に当時の大統領ジェームス・モンローが提唱したもので、「アメリカ大陸への欧州諸国の干渉を拒否する」と同時に、「アメリカも欧州の内政に干渉しない」という「相互不干渉」主義である。
これにより、アメリカはアメリカ大陸をアメリカの勢力圏であると規定し、南北アメリカにおける覇権をアピールした。
トランプのNSSは、なんとこのモンロードクトリンを復活させ、「アメリカは西半球で米国の優位を回復し、本土を防御するため、モンロードクトリンを再確認して執行する」と明示している。つまり、アメリカは今後、アメリカのバックヤード(裏庭)である中南米に力を集中し、東半球は優先事項としないとしているのだ。
東半球にはユーラシア大陸全体、アフリカが含まれる。つまり、アメリカにとっては欧州もアジアも最優先事項でなくなり、中国抑止を続けるものの、それは韓国、日本などの同盟国の力を合わせて行うというのである。
■大きな戦略転換に北京は歓声を上げるだろう
NSSに関して、「ウォール・ストリートジャーナル」(WSJ)は、「中国をアメリカの最大の挑戦者としてきたここ数年間の基調と決別した融和的なアプローチ」だと論評した。
WSJの記事中で、SAIS(ジョンズ・ホプキンス大学国際関係大学院)のジェシカ・チェン・ワイス教授は「北京の指導者たちは今回の文書をアメリカの戦略が自分たちに比較的有利な方向に転向したと判断する可能性が高い」と指摘した。
また、AEI(米国企業研究所)のライアン・ペダシウク研究員も「アメリカが台湾問題において『反対する』から『支持しない』に立場を緩和したことに対し、北京は歓声を上げるだろう」と述べている。
■第一導列島線の防衛を韓国、日本などに要求
NSSは、対中戦略に関して、具体的に次のように述べている。
「第一導列島線内のどこでも侵略を拒否できる軍事力を構築する。しかし、アメリカ軍だけでこれを進めることはできないし、また、そうすべきでもない」
「同盟国は積極的費用を支出しなければならない。そしてさらに重要なのは、集団防衛のためにはるかに多くのことをすべきことだ」
「日本と韓国が敵を抑止、第一列島線を守るのに必要な能力にフォーカスして、国防費を増やすように促すべきだ」
第一導列島線というのは、日本の九州−沖縄−台湾−フィリピンを結ぶ仮想の線である。この線を突破しようと、中国海軍は戦力拡張を測ってきた。こレニ対して、アメリカはもう自分たちでは守りきれないと言っているのである。
■日本を擁護せずに中国を重視するトランプ
このような文脈の中に、いまや大問題となった高市首相の台湾有事に際しての「存立危機事態」発言を置くとどうなるだろうか? 彼女が、世界情勢を読めず、ついうっかり思っていることを言ってしまったではすまないことがわかる。
その後、レーダー照射事件が起こり、高市応援団と右派言論は勢いづいているが、トランプにハシゴを外されていることを自覚しないと日本は大変なことになるだろう。日中の対立に、トランプは口を挟まず、まして日本を擁護する気などさらさらない。
11月11日、報道官のカロリン・レビットに、「アメリカは日本と非常に強固な同盟を維持しつつ、中国とも良好な協力関係を保つ立場にいるべきだと考えている」と言わせただけである。
それにしても、トランプは本当に愚かだ。
モンロードクトリンというのは、19世紀の話であり、当時のアメリカは、まだ地域覇権も持っていなかった。しかし、いまや世界覇権を持っている。それを、手放して、アメリカ大陸だけの地域覇権国になり、それが「Make America Great Again」というのである。
■世界の首脳を招いた盛大な軍事パレード
中国がアメリカに代わって世界覇権国になろうとしていることは周知の事実である。かつてはそんなことはないと思えたが、習近平政権になってからは、このことは明白になった。それなのに、トランプは中国を甘く見ている。というか、そんなことより目先の利益が大事だから、簡単に妥協して手を結ぶ。
なによりも、トランプは歴史に無知であり、地政学をまったく知らない。
9月3日、中国は北京で中国人民抗日戦争・世界反ファシズム戦争勝利80周年記念式典を盛大に行った。このときの軍事パレードは史上最大規模で、プーチン、金正恩はもとより、直前に行われた上海協力機構(SCO)首脳会議に参加したグローバルサウスなど26カ国の首脳たちも顔を揃えた。
同盟国まで関税で恫喝し、「みかじめ料」を巻き上げるトランプのアメリカと習近平の中国を比べると、はるかに中国のほうが同盟国を大事にし、友好国作りに戦略的だ。
そして、その戦略を明確にした政策を、記念式典の前、SCOプラスの会議で、習近平が提起した。
