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TERRA LAB ~防災の地理学~

瀧波一誠(戦略地理アドバイザー、(社)日本地域地理研究所代表理事)

瀧波一誠

【防災×地理】なぜ同じ高崎市内で、地価が3倍も違うのか。その差に隠れた災害リスク
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はじめに

防災士として地元である群馬県高崎市でで活動する中で、こんな質問を受けたことがあります。

「同じ高崎市内なのに、駅から同じくらいの距離でも土地の値段がずいぶん違いますよね。なぜですか?」

不動産を探した経験がある方は特に、確かに感じるのではないでしょうか。同じ市で同じ最寄り駅、同じような駅徒歩の距離など、似たような環境に見えるのに価格には大きな差が出ていることがあります。

この価格差にはきちんと理由があります。オーナーの都合で安く出ている可能性もありますが、たいていの場合、その土地が過去どれだけ安全だったかや、その土地に住む人々がどう生き延びてきたかが数字として表れたものです。今日は、地価という身近な数字から、それらの「土地の記憶」を読んでみましょう。


地価を「比べる」

国土交通省が公表する2026年の地価公示の住宅地データを集計すると、群馬県で最も高い地点は「高崎市真町8番外」で、1㎡当たり17万7,000円。

不動産情報ライブラリ(https://www.reinfolib.mlit.go.jp/)より

一方、高崎市全体の平均は同年で5万8,327円。中心部の最高地点と市平均で、3倍以上の開きがあります。

地価は駅からの距離や商業集積、用途地域、需要見込みなど、多くの条件に影響されて決まります。よって、たとえ住宅地に話を絞ったとしても、地価が高い土地は安全で、低い土地は危険であるという単純な話でもありません。ただ、価格は今まで多くの人々が「ここは住みやすいか」を判断し続けた結果の集計という一面があります。その判断の中には利便性だけでなく、土地の持つ性質含まれておりその中でも見落とせないのが、地形なのです。


地形を「重ねる」

ここで、地価分布と国土地理院の地形図を重ねてみます。すると、あることが見えてきます。

「地理院地図」より

高崎市街地は関東平野の北西縁に位置し、前橋台地の西側にある高崎台地から、烏川や碓氷川沿いの低地へ移る場所にあります。


高崎台地は、前橋台地と同じ前橋泥流の堆積面を基盤としますが、井野川の低地を挟んで分かれた別の台地です。高崎駅や市役所周辺は、この高崎台地の上にあります。地価の高い地点はおおむね台地の上に、低い地点は河川沿いの低地に分布する傾向があります。

不動産情報ライブラリ(https://www.reinfolib.mlit.go.jp/)より

「地理院地図」より、自分で作る標高分布図

なぜ台地と低地で地価が異なるのでしょうか。この地域の台地の正体は、前橋泥流の堆積面に関東ローム層という火山灰が長い年月をかけて積もってできた、比較的古く、標高の高い平地です。それを烏川や碓氷川が侵食していきました。侵食により低くなった場所が、現在の河川沿いの低地です。

低地では河川が氾濫するたびに土砂を堆積させ、新しい低湿地を形成しました。

同じ平地でも、台地は侵食から取り残された比較的古い平地、川沿いの低地は河川が堆積作用で更新し続ける比較的若い土地です(「洪積台地(更新世に形成された平坦面)」、「沖積平野」という分類をされます)。両者は形成された時代も地質も異なることがわかります。

「地理院地図」より、自然地形分類図

高崎市中心部の台地面と烏川の河床との比高はおおむね10mほど。数字で見るとそれほど大きな差に感じませんが、これはビル3階分ほどの高さであり、水害対策の視点では非常に大きな違いと言えます。
もっとも、標高の高さが安全を絶対の安全を保障するわけではなく、台地のなかにも浅い谷や低い場所はあり、リスクは場所によって異なります。それでも、台地と低地の差は、リスクを考える最初の手がかりになります。

私たちは、土地を評価する時に駅や道路などの交通利便性、店舗からの距離など生活圏の環境などを基準にしがちです。しかし、古くから用いられてきたもう一つのレイヤーとして、「高低差と水の流れ」があります。城や市街地は水害のリスクが低く守りやすい台地上に築かれる傾向がありましたが、台地は水が得づらいというマイナス面も抱えています。
それを解決するため、この土地では人々が長野堰用水を引いて水を得られる仕組みを整える一方、土地には「高崎」という、地形の特徴を反映したを名をつけたのです。
どれも、その土地の持つ環境の中で、人々がどう生き延びるかを選んだ記録であると言えます。その選択の跡が、今の街にも様々な形で残されているのです。


ハザードマップを「重ねる」

ここでもう一枚、高崎市のハザードマップを重ねて見てみましょう。河川に近い低地が抱えるリスクは2つ。水害(浸水)と液状化です。

水害のリスクは、ハザードマップを開けば一目でわかります。

国土交通省「ハザードマップポータルサイト」より https://disaportal.gsi.go.jp/

これを見ると、リスクを抱える地域は烏川・碓井川と支流沿いの低地に浸水想定区域が広がり、台地の上にはほとんど見られないことがわかります。特に市街地の西側、碓氷川と烏川の合流地点は、増水時にそれぞれの水流が影響し合うことで水位が上がりやすく、西側の低地の浸水リスクが高くなっていることがわかります。

なお、液状化は強い地震の揺れで砂の地盤が地下水と混ざり合い、液体のように動く(場合によっては噴砂を起こし、不同沈下を誘発する)現象です。

堆積した砂と浅い地下水位、そして強い揺れという3要素が揃った時に起こりやすくなります。そして、砂の堆積した地下水位の浅い低地になりやすい微地形(特に小規模・局所的な地形)の代表例が「旧河道」です。旧河道はその名の通りかつて川が流れていた跡であり、砂が堆積した水はけの悪い、周辺に比べて低い土地です。

また、「自然堤防」は洪水のたびに砂が積もってできた細長い微高地で、河川沿いの自然地形の中では比較的安全とされ、その上に古い集落が立地していることもしばしばです。自然堤防自体は水害に強い微地形なのですが、その背後や縁は地下水位が高くなりやすい場所になりがちです。
例えば「後背湿地」は、自然堤防の裏側に広がる、かつて起きた水害が砂を堆積させてできた水はけの悪い低い土地であり、液状化被害を比較的受けやすい特性があります。※旧河道・自然堤防・後背湿地には、それぞれ国土地理院の説明サイトへのリンクを付けてあります。

ちなみに「旧河道」「後背湿地」は共に古くから水はけが悪く(水を溜めやすい)、水を引きやすい(低地)平地であることから、水田利用されていることが多い地形でもあります。

ハザードマップは、確かに危険の及ぶ可能性がある範囲を的確に示しています。しかし多くの場合、その理由までは教えてくれません。地理的な視点からその理由を読み解くことは、その土地が抱えるリスクをさらに精緻・正確に把握し、適切な対策を立てる第一歩になるのです。


カスリーン台風が残した記憶

時間軸でも、土地は過去の災害の記憶を宿しています。1947年9月のカスリーン台風は、関東地方に広域の被害をもたらしました。

上陸はしなかったものの、停滞前線を刺激した豪雨が利根川上流域で発生し、群馬県内では死者592名、行方不明者107名という甚大な被害が出て、赤城山を中心に山地崩壊は5,500か所、放射状の渓谷のほぼ全てで土石流が発生しています。
旧大胡町、現在の前橋市大胡地区の荒砥川沿いには、1949年に「昭和水難観音」が建立されました。

これは、本稿の高崎市の話ではありませんが、川沿いの低地の水害リスクの高さが土地の記憶として受け継がれている事例のひとつです。
東日本大震災でも、古い津波被害を伝える伝承碑より低い場所が大きな津波被害を受けた事例があったことも、古い観音像や伝承碑が、その土地と人々が災害とどう向き合ってきたかの記録であり、後の世代への伝言であることを証明しています。
なお、下の地図の「自然災害伝承碑」はほぼ全てカスリーン台風に関連するものであり、地域に与えた衝撃の大きさを物語っています。

国土交通省「ハザードマップポータルサイト」より https://disaportal.gsi.go.jp/


地名を「読む」

最後に、もう一枚別の地図を重ねてみましょう。地名の地図です。

「高崎」という地名は、土地を読む手がかりになります。1598年、井伊直政が城を築いた際、当初は「松ヶ崎」と名付けようとしましたが、白庵和尚が「松は枯れることがあるが、高さには限りがない」と進言し、現在の地名が生まれたとされます(諸説あり)。

それまでの呼び名は「和田」でした。
由来には諸説ありますが、「崎」は突き出た高所を表すために使われることが多い地名です。実際、高崎城(現在は城址)は高崎台地の縁の突き出した場所に作られ、市街地(城下町)も台地上に発達しています。

地理院地図より

市内には他にも「島」「沼」「窪」「久保」など、水や凹みと縁の深い字を含む地名が点在しています。
また、「音」にも注意する必要があります。例えば「くぼ」は、「窪」、「久保」など字面の違いに関わらず、凹んだ低い土地を指す同じ言葉です。同じように「しま」はかつての中州や水辺の微高地を、「ぬま」は湿地を指すことが多い呼び名です。
漢字は後から当てられたものが多く、漢字よりは音で意味を判断するとより正しく読むことができます。

新しく造成された住宅地(地名が変更されていることがある)でも、元の地名を掘り起こしてかつての地形の記憶が見つけることができるケースもあります(そのため、私は不動産を購入する際には必ず古地図を参照することを勧めています)。

ここで、最初の問いに戻りましょう。なぜ群馬県の住宅地で最も高い地点が、高崎市真町なのでしょうか。真町は、高崎駅から歩いて行ける距離にある古い住宅地であり、井伊直政の築城とともに整えられた高崎城下町の一角にあたります。城と同じく、烏川沿いの低地より一段高い高崎台地の上にある街です。水害リスクの低い高い土地という、四百年余り前の人々の選択が生んだ街と言えるでしょう。

時代が下り、その同じ台地の上に高崎駅が建てられ、上越・北陸新幹線が通る県内一のターミナル駅になりました。古くからの安全な高台に、近代以降の便利さが加わることで、際立って高い地価を生み出したと言えます。つまりこの地価は「便利」さだけの値段ではなく、四百年以上にわたって人が「ここなら生きていける」と選び続けてきた土地が、今も人々に選ばれているという記録だとも言えます。


今日からできる3つの確認

ここで、道具を2つ紹介します。土地条件図は、地形がどう作られたかという土地の生い立ちを示す「過去の地図」。ハザードマップは、どこまで被害が及ぶかを描く「未来の地図」です。この2枚を重ねることは、昔の人が暮らしのなかで読み取り、地名や用水や城の位置に残してきた読みを、現代の道具でやり直すことに近いのです。

今日からできる確認は3つです。

その1:
国土交通省のハザードマップポータルサイトで調べてみること。自分の土地のリスクが一目で確認できます。

その2:
国土地理院の地理院地図で「土地条件図」のレイヤーを見てみること。台地、扇状地、低地など、足元の地形分類が色分けで見えてきます。

その3:
自分の土地の地名の由来を調べてみること。古地図や地名由来の資料に当たれば、土地が抱える来歴が少しずつ浮かんできます。


あなたの街にも、土地の読み方がある

これは、今回取り上げた高崎市特有の話ではなく全国どこでも当てはまります。私たちが暮らす土地は、誰かがかつて「ここで生きていけるか」を考え、そのための工夫を重ね、時には犠牲を払ってきた場所です。

その積み重ねが、地価や地名にも残されていると考えれば、あなたの街の土地の記憶を読み解く素材は目の前にあることがわかると思います。

ハザードマップは確かに優れたリスクの可視化手段ですが、必ずしも土地の記憶を表すためのものではありません。その記録を地理的な読む視点で読み解き、目を持つことが、防災を地理から考える、最初の一歩になります。


次回|東京の地形から何が見えるのか

高崎の地価3倍の開きを生んだのは「わずかな高低差」でした。次回は、舞台を首都・東京に移します。人口集積と高層化が進んだ街で、敢えて地形を見ることで何がわかるのでしょうか。いつか来る首都直下地震を見据え、ハザードマップだけでは見えてこないリスクを地名、微地形、埋立地、谷地形から読み取ってみましょう。

同じ「比べる」「重ねる」「読む」の3つの目で、見慣れた東京を見直しましょう。

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