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山田順の「週刊:未来地図」
No.816 2026/01/27
「対中強硬」「防衛費増強」「消費税減税」は
なんのため?
「台湾有事」など起こりえないと思う3つの視点
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2月8日の投票日に向けて選挙戦が行われているが、最大の争点は消費税の減税だという。しかし、日本が置かれている経済状況、国際情勢を見ると、それは現実離れしているとしか思えない。
中国の制裁は相変わらず続いている。トランプは習近平と「G2」としての取引(グランドディール)をしそうである。となると、台湾有事など起こりえないのではなかろうか?
なぜ、そう思えるのか。今回は3つの視点で考えてみる。
*本稿の論旨と同じコラムを、「Yahoo!ニュース」に寄稿しています。
[目次] ─────────────────────
■台湾に行ったことがない高市応援団の若者
■日本より豊かな台湾をなぜ助けるのか?
■カネもないうえ、軍備も旧態依然ではとうてい無理
■ダメージが大きすぎる武力侵攻は非現実的
■3つの視点の1つ目は「NVIDIA」の重要性
■武力侵攻すればNVIDIAの半導体が失われる
■米中が別々にサプライチェーンを構築するのは無意味
■「台湾有事は日本有事」の前提となる日米同盟
■中国は封じ込めるが、それは同盟国がやれ!
■西半球はアメリカ、東半球は中国という「G2」
■韓国も中国に急接近、対米投資を延期(反故)に!
■防衛費増税、米国投資などから見た消費税減税
■「同胞」である台湾人を殺せるのか?
■好き嫌いの感情、イデオロギーで政治をしてはいけない
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■台湾に行ったことがない高市応援団の若者
最近、高市応援団の若者たち数人と話す機会があり、ショックを受けた。なぜ、高市首相を支持するのか?と聞くと、「日本人として言うべきことを言ってくれる」「中国に対して少なくとも対等であろうとしている」と言い、みな“対中強硬路線”に共鳴しているのだ。だからか、台湾有事(存立危機事態)発言について聞くと、「当然のことを言ったと思います。なぜいけないんですか」と言うのである。
そこで視点を変え、「台湾有事は日本有事。本当にそうなったときどうするのか?」と聞くと、「うーん」と首を傾げるのである。そんななか、ただ1人、「今度、実際に台湾に行ってみたい」という若者がいたので、「いままで台湾や中国に行ったことがないの?」と聞くと、誰1人行ったことはなかった。
■日本より豊かな台湾をなぜ助けるのか?
たった数人では断言はできないが、高市応援団の若者たちは、中国にも台湾にも行ったことがなく、ただSNSで流れているネトウヨ言論を鵜呑みにしているだけなのではなかろうか。
「台湾に行くなら、向こう、とくに台北の物価は日本より高いよ。スタバも日本より高いよ」と言うと驚くのだ。そして、日本より豊かな国(=台湾)をなぜ助けなければいけないのか?」と言うと、本当に驚くのである。
実際のところ、台湾は日本より豊かである。1人当たりGDPは、2024年に約3.4万ドルで、OECD加盟国中24位に転落した日本(約3.3万ドル)を上回り、2025年にはさらに増加して3.7万ドル超え、今年は4万ドルに達する見込みだ。
経済成長率で見ても、ここ数年平均で年率3%を超えており、1%がやっとな日本に比べて、発展は目覚ましい。
■カネもないうえ、軍備も旧態依然ではとうてい無理
さらに、大陸中国と言えば、経済規模(名目GDP)はすでに日本の4〜5倍に達し、年々その差は拡大している。1人当たりのGDPは、2024年に約1.3万ドルで日本の約2.5分の1だが、これは人口規模が大きいからで、沿岸部の中間層が多い地域では日本を上回っている。
そんな、日本より豊かな国同士の戦い(台湾は正式には国ではないが)に、なぜ、日本が片方に武力を持って参戦しなければいけないのか?
この視点が、いまの日本人にはない。台湾、中国から、あれほど沢山の観光客が訪れているというのに、自分たちの国のほうが上だと思っている。
また、財政状況は世界有数に悪いので、助けるために拠出するカネがない。軍備(自衛隊装備)はといえば旧態依然で、兵力(隊員数)も少ない。つまり、助けることなどとうてい無理なのに、そのことも無視している。
■ダメージが大きすぎる武力侵攻は非現実的
以上の現実がありながら、高市首相とその応援団は、なぜ台湾有事に介入したいのか、私にはまったくわからない。もちろん、その前提にはアメリカの介入があるが、彼らは日米同盟がなくとも介入したがっているように思える。
実際、そんな意図はなかったはずだが、先の高市発言を中国はそう受け取った。
ただし、いくら勇ましい発言をしようと、まともに考えれば「台湾有事」など起こりえない。人民解放軍が海峡を超えて台湾に武力侵攻し、台湾を併合することなど起こりえない。
すでに1度、私は台湾有事など起こらないという主旨のメルマガを配信している(No.813 2026/01/06台湾有事=武力併合など起こりえない!なぜそう思うのかというこれだけの理由)。
その根拠は、やれば米中台にとって、いや世界中にとってダメージが大きすぎるうえ、人民解放軍も台湾軍もアメリカ軍も「やる気」などないからだ。
中国も台湾も、そしてアメリカも備えはしている。しかし、それだけである。誰も武力行使など望んでいない。中国も、併合(中国統一)を狙うなら、武力行使をしない方法で行なおうとしている。
■3つの視点の1つ目は「NVIDIA」の重要性
以上を踏まえて、今回は以下、「台湾有事などありえない」の第2弾を、新たな3つの視点で述べてみたい。
1つ目は、現在、時価総額が世界最大の企業「NVIDIA」が米中双方にとって重要であること。
2つ目は、トランプが言い出した「G2」どおりに、アメリカの戦略が大きく変わってしまったこと。
3つ目は、習近平が台湾住民を「同胞」と呼んでいることがなにを意味するかということ。
まずは、1つ目のNVIDIAだが、ここのCEOの黃仁勳(ジェン・スン・フアン)が台湾系アメリカ人であることは重要だ。彼は、台南生まれで、両親は中国本土から台湾へ移住してきた外省人とされる。
2025年9月、フアンは半導体の対中輸出規制問題で、対中強硬派を「恥というバッジを付けたニセ愛国者」と批判した。そのため、「中国共産党の工作員」とトランプ支持の対中強硬派から罵られた。
しかし、トランプは、12月に、AI半導体「H200」などの対中輸出を緩和し、許可制での出荷を容認した。ただし、2026年1月現在、中国政府はアメリカが許可した「H200」の輸入を一時的に制限する動きを見せている。
■武力侵攻すればNVIDIAの半導体が失われる
NVIDIAの高性能半導体は、ほとんどが台湾のTSMCで製造されている。NVIDIAは、1998年以来、「ファブレス」と「ファウンドリ」とりして蜜月の関係にあり、TSMCなくしてはAI時代の半導体覇権をNVIDIAが握ることはなかった。
このTSMCが台湾企業であり、製造拠点が新竹サイエンスパークにあるということが、「台湾有事」など起こりえないという大きな理由である。
半導体製造はデリーケートな作業であり、ちっとした武力攻撃ですべてが水の泡となる。そうなれば、米中双方ばかりか、世界中が大きなダメージを受ける。そんな“愚”を中国が起こすだろうか。
NVIDIAのエグゼクティブ・バイスプレジデントのデボラ・C・ショキストはかつてこう述べている。
「台湾とTSMCになにかが起これば、その影響は非常に大きい。カリフォルニアが海に沈んだらどうするかと尋ねられるようなもの」
