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山田順の「週刊:未来地図」
No.828 2026/04/21
このまま米ドル、米株を持っていていいのか?
イラン戦争が招く「ペトロダラー」の崩壊
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イラン戦争は「有事のドル買い」を招いた。ドル高は進み、NY株価も上がった。しかし、その一方で、ドルの基軸通貨としての価値は下がっている。イラン戦争の焦点は、イランの核保有を認めるかどうかよりも、ドル以外の通貨による石油取引を認めるかどうかである。いわゆる「ペトロダラー体制」(石油本位制)がどうなるかだ。
もし、これが崩れれば、アメリカの世界覇権は崩壊に向かい、基軸通貨がない世界、多極化世界がやってくる。これは、日本と日本人がもっとも苦手とする世界だ。
写真 : Democracy of Hope
[目次] ──────────────
■なぜイランは通行料を人民元でと要求したのか?
■ドル「ペトロダラー体制」(石油本位制)の確立
■トランプは理解しているのか?ドル決済の重要性
■ペトロダラーのリサイクル(循環)システム
■じょじょに進む湾岸諸国のドル決済離れ
■ドルに代われるのか?「ペトロ人民元」の挑戦
■トランプのNATO脱退が本気ならドルは自滅
■「チップドル」がペトロダラーに代わる?
■ドル基軸体制が崩壊したらどうなるか?日本は?
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■なぜイランは通行料を人民元でと要求したのか?
世界の石油取引の決済はほぼ米ドルで行われている。世界のほぼすべての産油国はドル以外の通貨では、石油を売らないことになっている。イランは中国に人民元で石油を売っているが、これは経済制裁を受けているからだ。
今回のイラン戦争でホルムズ海峡を閉鎖し、通行料を人民元で払えと要求したのも、このためである。ドルを受け取っても、制裁によってドルによる世界の金融取引、決済システムを利用できないからだ。
ロシアも同じである。
このことから言えるのは、アメリカによる制裁、戦争が、じつはドルの基軸通貨体制(=アメリカの世界覇権)を弱めているということである。ドルが世界の基軸通貨、決済通貨として使われるのは、信用の裏付けがあるからだ。その信用をもたらすのは、ほかでもない、石油である。
■ドル「ペトロダラー体制」(石油本位制)の確立
このようなドルを「ペトロダラー」(Petrodollar)と呼ぶ。具体的には、産油国が石油の輸出によって獲得した「ドル建てのオイルマネー」を指す。
1971年のニクソン・ショックまでは、ドルは「金本位制」の下に、金(ゴールド)によって裏付けられていた。それが、1970年代半ばに、アメリカがサウジアラビアと交わした「原油はドルのみで決済する」という協定により、石油に代わった。
この協定では、サウジアラビアが石油輸出をドル建てで行い、それで得た余剰の石油収入をアメリカ国債に投資することが定められた。その見返りとして、アメリカはサウジアラビアに軍事支援と安全保障を提供することになった。
その結果、ドルはサウジアラビアに限らず、石油輸出国機構 (OPEC)の石油取引における唯一の決済通貨となり、世界の基軸通貨としての地位が固まった。これが、「ペトロダラー体制」(石油本位制)である。
■トランプは理解しているのか?ドル決済の重要性
以上のことは、世界政治、世界経済・金融の常識だが、今回のイラン戦争のようなことが起こると、メディアの報道が戦争そのものに集中するので、ついつい忘れがちになる。
そういえば、イラク戦争のときも、サダム・フセインが石油取引をユーロでしようとして、アメリカに叩き潰された。これを思い出せば、なるほどと思うはずだ。
しかし、いまはあのときと大きく違っている。
アメリカは石油輸入国から産油国に変わり、もはや中東の石油を必要としていない。トランプは「イランの石油が欲しい」と言ったが、本当は違うだろう。
欲しいのは、石油のドル決済の維持である。イランの現体制を崩壊させ、中国に石油を人民元で売るのを止めさせる。そうしないと、ドルの価値は低下し、アメリカの世界覇権は衰退する。
ただ、トランプがこのことを理解しているとは言い難い。トランプは目先のカネだけが欲しいだけ。日本から5500億ドルを巻き上げ、ファミリービジネスではサウジやUAEの王族から投資マネーを引っ張り、発言をコロコロ変えてインサイダー取引疑惑まで巻き起こしている。
いずれにせよ、アメリカの世界覇権は、石油がドルで取引されないと維持できない。このことは本当に重要だ。
■ペトロダラーのリサイクル(循環)システム
というわけで、ペトロダラー体制は、アメリカにとってもっとも重要なシステムで、これがなくなると、アメリカの世界覇権は消滅する。このシステムの最大のポイントは、ペトロダラーがアメリカに投資されることである。
石油輸出国が得たドルは、自国市場が小さいため、世界最大の資本市場であるアメリカに向かう。つまり、ペトロダラーは還流するかたちでアメリカの国債、株式、ドル預金などの金融資産となり、アメリカの貿易赤字と 財政赤字 をファイナンスしている。これを、「ペトロダラー循環」(ペトロダラーのリサイクル)と呼んでいる。
つまり、アメリカにとって貿易赤字などは、大した問題ではないのだ。最大の問題は、この循環システムが破壊されることである。
それを防ぐため、アメリカはペトロダラー循環で得た資金で、アメリカ軍を世界展開し、覇権に挑戦する国があれば武力を行使してでも潰すのである。
■じょじょに進む湾岸諸国のドル決済離れ
イラン戦争が起こる前から、ペトロダラー体制は弱体化してきた。一つは、ロシア・ウクライナ戦争で、ロシアが原油と天然ガスをルーブル建て及び人民元建てで決済する措置を取ったこと。もう一つは、サウジアラビアなど湾岸諸国が、ドル決済を離れ、複数通貨による決済を模索・採用し始めたことだ。
サウジアラビアは、2024年6月9日に期限切れとなったアメリカとの「ペトロダラー協定」を更新せず、ユーロ、人民元などの複数通貨による決済を開始した。その最初の試みは、2025年10月に、サウジアラムコから中国石油化工集団公司に、人民元建てで200万バレルの原油が輸出されたことだ。
サウジアラビアは、石油依存から脱却する経済改革「サウジ・ビジョン2030」を、潤沢な石油収入をつぎ込んで進めている。その一環として、中国主導のプロジェクト「エムブリッジ」(mBridge)に参画した。これは、中国人民銀行、香港金融管理局、タイ中央銀行、アラブ首長国連邦中央銀行、サウジアラビア中央銀行が共同開発した国境を越えた決済システム。ブロックチェーン技術を基盤とし、各国の中央銀行デジタル通貨(CBDC)を用いて決済を行うことで、「SWIFT」(国際銀行間通信協会)やドルのコルレス銀行システム((Correspondent Banking System)を迂回できるというものだ。
現在、サウジアラビアはアメリカへの輸出量の4倍以上の原油を中国に輸出している。また、中東産原油の85%は、日本を含むアジア向けである。ドルで決済する必要性はそれほどない。
