… … …(記事全文20,214文字)アメリカ建国250年に当たる2026年も、もう3分の2が過ぎ去ろうとしています。お祭り騒ぎが大好きなアメリカ人たちのことですから国中が祝祭気分で沸き返っているかというと、どうもそういう雰囲気ではなさそうです。
私が留学生として初めてアメリカに渡ったのが1977年、つまり建国200年祭の翌年でしたが、まだあちこちに大祭典の華やいだ余韻が残っていました。
それに比べると、今年のアメリカ世論は50年も経つと世の中はこんなに変わるものかとあきれるほど、お祝いより反省、自信より懐疑、世界最大の経済と軍事力を擁する国の安定感というより、これからいったいどうなるのかという不安に苛まれているように見えます。
その証拠とも言えるのが、さまざまな世論調査機関が申し合わせたように「アメリカンドリームは健在か、昔はあったがもうなくなってしまったのか、それとも元々なかったのか」という角度から、アメリカ国民の声を聴こうとしていることでしょう。
うろ覚えの記憶ですが、建国200周年の1976年に「アメリカンドリームは元々存在しなかった」という選択肢を含んだ回答をしてもらうかたちで世論調査を実施した調査機関はなかったのではないかと思います。
- ● 「アメリカンドリームは健在」は今や少数派
まず、『Politico』というニュース配信メディアが2025年10月に実施した世論調査結果で、アメリカンドリームに関連の深い項目を抜き書きした図表1をご覧ください。
ポリティコという名前からもご想像いただけるように、このニュース配信メディアは内政・外交を含めて政治を得意分野としていて、メディアのバイアス判定機関などはやや民主党寄りと評価しています。
というわけで、共和党が大統領職や連邦議会の多数派を占めているときには、悲観的な設問での世論調査が多くなる傾向があるのは事実です。
ただ、それにしても「アメリカンドリームはもう存在しない」という設問で「反対する」「強く反対する」の合計が、最大の共和党支持者でも40%に過ぎず、最低の18~24歳層ではわずか15%、全回答者で26%、かろうじて4分の1を上回る水準というのは驚きです。
さらに、「強く同意する」「同意する」の合計が50%以上に達している人たちの属性を見ると、女性(50%)、18~34歳層(若い方から55%、52%、50%の順)民主党支持者(52%)、黒人(54%)、年収2万5000ドル未満(50%)となっています。
とくに切実にアメリカンドリームの不在を感じているのが18~24歳層と黒人だという数字は、やはりアメリカ社会全体が下積みの人たち、あまり人生がうまくいっていない人たち、これからどうやって生きていくのか不安を抱えている人たちに冷たい社会だと教えてくれます。
「アメリカ最良の時代はもう過ぎてしまった」という意見に50%以上同意しているのが、最若年層と黒人以外に、35歳以上の年齢層全体に広がっているのも興味深い事実です。
この人たちは「アメリカンドリームは存在しない」への賛成は50%未満なのですが、アメリカ最良の時代はもう過ぎてしまったと感じているわけです。
これから社会の中軸となる人たちにもアメリカンドリームを達成するチャンスは残されているけれども、それは我々(あるいは我々の父母、祖父母)が見たアメリカンドリームに比べれば、大分スケールダウンされたものになっているだろうということでしょうか。
なぜ建国200年祭の頃に比べて、去年から今年にかけての世論調査結果がこれほど悲観的になっているのかの手がかりになるのが、図表2のグラフです。
一目瞭然と言うべきでしょうが、技術革新の成果がすなおに価格低下に現れてくるようなモノやサービスは、競争の激しい業界が提供していることとともに、なければないで済ませられることが多いアイテムばかりです。
一方、平均的な勤労者の時給より値上がり率が高いのは、表現がきつく感じられる方もいらっしゃるでしょうが、暮らしていくために大事なものをなんらかのかたちで人質にとっているような産業あるいは専門職能団体が供給しているモノやサービスばかりです。
タバコあるいは広い意味での喫煙は、依存症を形成してしまった人たちの生活習慣を人質に取っています。「高くなったから買うのをやめよう」とすることに大きな困難や苦痛が伴います。
病院治療費はもちろん命や健康を人質に取っています。大学授業料は子どもたちが収入も安定し、社会的地位が高いとされる職業に就くための資格を人質に取っています。
上下水道料金も、きちんと衛生状態を管理した水が飲めて生活排水を気兼ねなく流すことができるのは、現代人の日常生活にはなくてはならない条件だからこそ、平均的な時給を大幅に上回る値上がり率になっているのでしょう。
値上がりしたからといって、おいそれと「もっと安い地方に引っ越そう」とか「いっそ、外国に移住しよう」とはいかないでしょうから、これも人質に取られているようなものです。
このグラフには収録されていませんが、同じような理由で電力料金もまた、利便性に富んだ現代人の暮らしには欠かせないものの供給を人質に取られていると言えます。ほぼ確実に平均的時給より大幅に値上がりしているはずです。
さらに、家は安定した生活の拠点として非常に重要性の高い場所です。ホームレス人口の激増も含めて、いまアメリカ社会は住宅問題で深刻な局面に遭遇していますので、この問題については次回刊行の『アメリカンドリームは死んだのか、元々なかったのか 住宅市場編』でくわしく論じます。


