… … …(記事全文3,531文字)先の石破茂首相のトランプ米大統領との会談で、石破首相は「MAGA(米国を再び偉大にする)」を掲げるトランプ氏の米国第一主義にすっかり呑み込まれてしまい、主権国家のリーダーであることを放念したかのようだった。日本の宰相は、トランプ氏に抱きつくソフトバンク・グループの孫正義会長のような民間の投資家ではないはずだ。
トランプ氏は2月7日、石破氏を招いたホワイトハウス・オーバル・オフィス(大統領執務室)に、米メディア大勢を呼び込んだ。石破氏はそこで対米直接投資残高1兆ドルを提示するとトランプ氏はすっかりご満悦だ。本来は民間企業次第の対米投資計画を、全米メディアの前で口にしたのだから、事実上国際公約にさせられたことになる。
日本製鉄によるUSスティール買収問題については、「買収ではなく投資」というふわっとした日本側提案にトランプ氏が便乗した。トランプ氏は国家安全保障が関わる企業買収話をビジネス取引の範ちゅうに矮小化してしまった。となると、トランプ氏は石破政権を通じて、日鉄にUSスティールへの過半出資をあきらめさせるばかりではない。日鉄に対してUSスティールへの技術革新投資の圧力をかけられる。
米国流のM&A(企業合併・買収)なら、相手企業の株式の100%を取得して完全子会社化する。買収先企業は市場で取引される商品同然で、いつでも市場で売り飛ばす。リスクのある本格的な新規設備投資はしない。
これに対し、日本製鉄はUSスティールを経営支配する代わりに雇用継続を保証し、資金や人材を通じて虎の子の技術やノウハウを注ぎ込むと表明してきた。そうなら、基幹産業の鉄鋼で米最大手の競争力が高まり、世界の鉄鋼市場を支配する中国に対抗し、米国安全保障に貢献出来る。石破首相は、取り巻く米メディアに向かって、それがサムライ流なのだと、大見えを切るチャンスが十分あった。オーバルオフィスでの会談は約1時間だが、メディアを入れない会談時間は30分しかなく、それも石破氏の対米投資データの説明が中心だったと聞いた。会談後の共同記者会見は約30分だが、石破氏は脇役だった。